Unromantic Christmas

 美誉子は、わずかにラメの入った、栗色の毛糸玉を手にとって、

「髪と瞳の色に合わせるっての、どう?」

「いいんじゃない? 茶色系なら、どんなコートにも合わせやすいしさ」

 桜が横から覗き込んで、ひょい、と美誉子の手の毛糸玉を取った。

「それにしても、受験生の分際で、クリスマスに手編みの手袋を上げようとは、余裕だな。それとも、

それほど早乙女くんへの愛情が深いということか?」

 にやにやして言う桜に、美誉子は言い訳がましく、

「いや、手袋ならね、これから家庭科で編むわけだし、自分のを練習ってことにして、平行して

2個編んでいけば、効率もいいかなって」

 美誉子と桜が持つレジかごの中には、毛糸玉が4玉ずつ入っている。桜は、サーモンピンク。

美誉子はライト・グレー。

 冬に向けて選択家庭科で手袋を作るので、ふたりは毛糸を買うため、放課後に手芸店を訪れていた。

 店内のディスプレイは、すっかりクリスマス仕様。ショウ・ウィンドウには、サンタ服をきた大きな

テディベア。天井には赤や緑のリボンが渡され、いたるところにクリスマスプレゼント向けの完成見本が

ぶら下がっている。店の真ん中の企画コーナーには、手作りのツリーやリースの材料が山のように。

「それに、家庭科でやってるわけだから、わかんなくなったら、先生に堂々と質問もできるし、

家でも堂々と編める」

「それは言えるな」

 毛糸玉を美誉子の手に返しながら、桜は笑って。

「あと2か月あるんだから、何とかなるか」

 美誉子は頷いて、栗色の毛糸玉をレジかごに入れながら、

「難しいけど、編む量は少ないからね」

 編むのは、本格的な5本指の手袋である。

「桜こそ、上手なんだから、管ちゃんにセーターとか編んであげると、すっごいポイント高いと

思うけどな」

 桜は、吹奏楽部の顧問の菅野教諭に2年あまりも片思いを続けている。

「手編みセーターって怖くない?」

 桜は真顔で美誉子を見上げる。

 桜の身長は150センチほどなので、171センチある美誉子が間近にいると、首がだるくなるほどの

角度で見上げなければならない。

「怖い?」

「怨念こもってそう」桜は顔の前に手をたらして幽霊ポーズをとり「着てはぁもらえぬぅセーターを〜

涙こら〜えて編んでます♪ ってやつよ」と、歌った。

 美誉子は、店内にもかかわらず、お腹を抱えて大笑いして。

「確かにねえ、ひと目ひと目に女の怨念がこもってるってか」

「セーターなんて、めちゃくちゃ怖いと思わない?何十時間かかってると思う?」

「うーん、そうだよねえ、編んでる間は、着てくれる人のことばっか考えてるだろうしねえ」

「そうそう、家族や彼女でもない女が編んだセーターなんて、恐ろしくて着れたもんじゃないって」

 桜も笑っていたが、美誉子は、その笑顔が少し寂しそうだと思った。

「いつか、桜の編んだセーター、管ちゃんが着る日が来るといいなあ」

「そんなの、夢のまた夢」

「その日が来たら、すっごい細かい模様の、フィッシャーマンズセーターとか、着せればいい。

怨念で身動きとれないくらい、こりまくったヤツ」

「どんなだよぉ」

 桜も、他のお客に顔をしかめられるくらい笑い転げた。

 会計間際、桜がそっとクリスマス用のビーズ手芸の本をレジかごに入れたのに、美誉子は気づいたが、

そのまま気づかないふりをした。

 

「やっぱり桜だ」

 音楽室の入り口から、美誉子が顔を出した。

「お、美誉、まだ帰ってなかったんだ?」

 桜はマリンバから顔を上げて、マレット4本を美誉に向けて振った。

「終業式の放課後に、一人でマリンバの練習してるのなんて、桜くらいだろうと思って寄ってみた」

 終業式後の音楽室は、新学期まで使用するのは吹奏楽部だけなので、机がすべて隅に寄せられ、

合奏隊形に椅子が並べられっぱなし。いつにも増して殺風景で、年末であることを実感させられる。

今日はさすがに現役の練習は休みだが、5月のコンサートに向けて、冬休み中も何日か練習がある。

 桜は、音楽室が貸し切りにもかかわらず、律儀にパーカッションの定位置で練習をしていた。

 習慣的に、管楽器の右側か後ろ……奏者から見て……でないと、落ち着かないのだ。

 美誉子は、マリンバを挟んで桜と向かいあった。

「美誉こそ、楽器持って帰ってるんでしょ?」

「持って帰ってるっていっても、ボロい方だよ。管ちゃん楽器は現役が使ってるからねえ」

 美誉子が現役時使っていたファゴットは、顧問の菅野先生のお下がりだった。今、家に持って帰って

いるのは、骨董品の部類に入りそうな学校の備品。

「それでも毎日吹けていいじゃん。あたしなんて、マリンバやティンパニ持って帰るわけにもいかないし、

時々こうして現役の邪魔にならない時に、憂さ晴らしするしかないのさ」

「私だって、毎日も吹いてないよぉ、さすがに」美誉子は笑って胸の前で手を振る。「ヤバイもん、

さすがに。真面目に勉強してますよ」

「良く言う、美誉ならN大の教育くらい、余裕でしょうが」

 美誉子の第一志望は、地元国立N大学の人間教育学部である。

「えー、全然。ぶっちゃけ、こないだのO社模試、合格率70%だった」

「70あれば、受かるんじゃないの?」

「いやあ、80ないと、不安らしいよ。おかげで、冬休み中、カテキョーつけられちゃった」

「わあ、さすがお嬢」

「いやいや、家庭教師ったって、兄貴なんだけどさ」

 美誉子は露骨に嫌そうな顔をした。

 美誉子の兄もN大出身である。

「なんだ」

「兄貴、院生の頃カテキョーのバイトしててさ、何人もN大に入れてるのよ。だから変に自信

持っちゃってて、俺にまかせとけば、バッチリだ、とか言っちゃって」かなりうんざり、という表情で

溜息を吐く。

「落ちたら、お兄さんのせいにすればいい」

「あ、そっか、それいいな……そう言う桜こそ、余裕そうじゃん」

「アタシは無理しないもん。偏差値相応なとこしか受けないし。滑り止めに短大も受けるし」

 桜は、東京の家政系の女子大をいくつか受験する。テキスタイル・アドバイザーの資格をとり、

アパレルメーカーで企画の仕事をするのを目標にしているのだ。

「無理せずに、将来の夢と当面の目標が直結してる学校に入れるなら、それにこしたことはないもんね」

「美誉だって、国語の先生になって、中学校の吹奏楽部の顧問になるんでしょ。直結してるじゃん」

 美誉子は小学生の頃から学校の先生になりたかった。国語の先生で、吹奏楽部の顧問という

具体的な目標が定まったのは、高校入学後であるが。

「イマドキ、先生になることが難しいからねえ。それに、国語の先生より、吹奏楽部の顧問の方が、

真の目標だからさ、動機が邪道」

 美誉子はぺろっと舌を出した。

 桜は笑って。「きっと、こういうヤツに限って、吹奏楽部なんてとんでもないような、山奥の分校とかに

配属されるんだよ」

「あり得るぅ、全校生徒が5人の小学校とかねえ」

 ふたりは笑い転げた。

「桜、まだ練習したい?」

 笑いが治まりきらないまま、美誉子が訊いた。

「うん? そろそろ終わろうと思ってたけど」

「せっかくだから、ちょっとお茶しない?」

 部活の現役中は、毎日つるんでいた二人だが、引退後はクラスが離れていることもあり、会うことも

少なくなっている。電話ではときどき話しているが、サシでゆっくり話せるのは、先月手芸店に毛糸を

買いに行ったとき以来だった。

「いいねえ、行こう行こう。って、早乙女くんはいいの?一緒に帰るんでないの」

 美誉子は、早乙女晃との交際を家族に反対されているため、下校時は貴重なデートタイムになっている。

「いやあ、早乙女くんはねえ、今日から補習でまだまだ帰れないの」

「補習って……ああ、もしかして、出席日数足りないの?」

「うん、微妙に足りないらしくて、年内はびっちり補習なんだって」

「そうなんだぁ……大変だったもんねえ」

 晃は半年ほど前、母の闘病のために親族のいるこの町に転入し、転校してきたのだが、その後も看病や

死去に伴って、通学はままならなかった。

「うん……仕方ない」

 桜は、美誉子の笑顔がちょっとだけ寂しそうだと思った。

「さぶっ」

 美誉子はぶるっと震えて紺のセーターの上から自分の二の腕をさすった。

「楽器吹いてないと、音楽室ってこんなに寒いんだねえ」

「もう暖房切られてるからね。よし、ダッシュで楽器片づけてお茶しよ」

「手伝うねっ」


 

 雪が降り始めていた。

 二人は自転車を、学校の近くの、現役時代も良く使った「白樺」という喫茶店に停めた。コーヒー

1杯で長居させてくれるので、重宝していた。

 終業式の日だからか、店は空いていた。

 二人は、店の入り口でコートを脱いで雪をはたき落とし、勢いよく燃える薪ストーブのそばの席に

着いた。メニューを見ることもなく、桜はココア、美誉子はカフェオレをオーダーした。

 桜は窓から外を眺め、「ふぅ。いよいよ積もりそうな雪だねえ」

 ねずみ色の空から、湿った雪がふわふわと舞い落ちている。

「また雪かきの日々だな……」美誉は溜息まじりに応えた。

「美誉んちは、広いから大変だよね」

「まあ、蔵人さんたちもお正月明けたら来てくれるから、大丈夫なんだけどね。それまでが、

一家総出でやるしかない」

 美誉子の家は古い造り酒屋である。

「正月明けまで大降りしませんように」

 美誉子は窓の外に向かって手を合わせた。

「でもでも、クリスマスはやっぱ、降ってた方がいいじゃん」

 桜が身を乗り出したところで、飲み物が来た。

 ふたりとも、カップをふうふう吹いて、一口飲んでから。

「イブまであと2日かあ。早いねえ」

「美誉は、当然早乙女くんとデートでしょ?」

「だーかーらー、彼は補習だって言ってるでしょ」

「えっ、イブも?」

「イブイブも、イブも、当日も、だよ」

「げー、先生たちも、ダッサイことするなあ」

 桜は思いっきり顔をしかめた。

「まあ、考えようによっては」美誉は苦笑して。「先生方もせっかくのクリスマスに出勤になって

気の毒かなと」

「あ、先生たちはね、たいがい年末はぎりぎりまで出勤なんだって」

「そーなんだ?……って、ねえ、桜、それ管ちゃんにきいたの?先生クリスマス・イブは学校に

来ますかって?」

「ま、まあね」

 桜はちょっと肩をすくめた。

「ほー」美誉子はにやにやして。「管ちゃんに、やっぱり何かプレゼントするの?」

「プレゼントってか……ケーキをね、差し入れしようかと思ってさ」

「おおー。いいじゃあないですか。桜、お菓子も上手だからなあ」

 手先が器用な桜は、料理も裁縫も得意である。

「私も食べたいなあ」

「イブの午後に学校に来たら、食べさせてあげるよ」

「え、だって、管ちゃんに上げるケーキでしょ」

「それがね」桜は肩をすくめ、「管ちゃんにね、出勤だったら、せめてイブのお茶の時間に、

クリスマスケーキ作って、差し入れしましょっか?って言ったらね」

 げんなりした表情をしながら、菅野教諭の話し方を真似て、

「おお、それは非常に嬉しいぞ。でも、桜、お前、そんなに大きいの焼けるのか?」

「うむ?」美誉子は首を傾げた。

「他の先生方も出勤してるし、午後でも何人かは残ってると思うから、大勢で分けられるようにな、

だって」

「う」美誉子は眉をしかめて。「わかってないなぁ……管ちゃん。桜は、管ちゃんにだけ、

上げたいのにね」

「ま、仕方ないんだけどね。がっつりアプローチしてるわけじゃないし……そもそも、まだ先生と生徒

だからね。露骨にアプローチするわけにもいかないしさ」

 桜はとろりとしたココアを啜った。

 美誉子はそんな桜を心配そうに見つめて。

「……そろそろいいんじゃないかな?もうすぐ卒業だし」

「いやあ……」桜は溜息を吐いて。「どうしようかなって、思ってる。卒業と同時に告るぞっ、って

思い続けてここまで来たけど、どうも望みなさそうだし」

「そ、そう?」

「管ちゃんの授業が受けたくて、わざわざ受験科目を世界史にしたのに、ついに3年間1回も担当して

もらうことはなかったし……ってことは、縁がないってことのような気がしてくるし」

「そ、そんなのは、たまたま……」

「しかも、これだけ弁当を作り続けて、更にクリスマスにケーキ作ってあげるって言ってるのに、

それでも気づいてくれないってのは、ねぇ……」

 土日に部活があるときは、菅野教諭の弁当を桜が欠かさず作ってきていた。

「よ、よっぽど鈍感なんだよ。ほら、どう見ても、管ちゃんって女性に縁薄そうだし」

 美誉子は必死にフォローを入れる。

「そんなヤツにこんなに長い片思いをしてるアタシは何なのよ」

「うっ……」

 美誉子の困った顔を見て、桜はカップの陰でクスクス笑い出した。

「ま、他の先生のことも考えろよ、っていうあたり、それが管ちゃんのいいとこかなっても、思うし」

「まあねえ、そういう人だよねえ」

 美誉はカフェオレのカップで掌を温めながら。

「せいぜい、管ちゃんには大きく切り分けてあげるとかね」

「うん、オマケもつけるつもり」

「オマケ?」

「これこれ、見て」

 桜は、通学用のリュックサックから、薄っぺらな本を取り出した。一緒に手芸店に行ったときに、

こっそり買っていた、クリスマス用のビーズ手芸の本だった。

 美誉子はページを繰る桜の手元を覗き込んだ。

「これこれ」

「うひゃ、いい、かわいいー」

 桜が示したのは、サンタクロースの楽隊のデザインだった。サンタクロースがそれぞれ5種類ほどの

楽器を持っている。

「これのね、クラリネットのをファゴットにアレンジして、タダイマ鋭意制作中。そうだ、自分のは

練習がてらに作ってみたんだ。太鼓のは、レシピそのままでいけるから。見て見て。」

 桜はスカートのポケットから小銭入れを出した。そのファスナーの金具に、親指大のサンタクロースが

ぶら下がっていた。バスドラムを抱えている。

「わ、いいー。かわいいー。私も欲しいぃ、作ってえ、ファゴットのー」

 美誉子は桜の小銭入れを奪い取り、サンタクロースに見入った。

「あんた、受験生になんてこと言うの」

「えー、桜、余裕だって、さっき言った」

「お揃いは管ちゃんだけでいいのっ」

「うう……そっかあ……そうだよねえ……」

 美誉子はしぶしぶ桜に小銭入れを返した。

「管ちゃんには携帯ストラップにしてあげようかなって……ねえ、そういう美誉は、早乙女くんの手袋

できあがったの?」

「うん、あと仕上げだけだから、間に合いそう」

「おお、がんばったねえ」

「毎日ちまちまと、編みましたよ」

「家庭科の課題、そっちのけで?」

 美誉子はぺろっと舌を出して、「自分のはまだ片方もできてないけど、ま、間に合うでしょ」

 家庭科の方は、片方のみセンター試験までに提出すればいいことになっている。桜は2学期中に

余裕で提出した。

「それだけがんばったのに、イブにデートもできないとは、あんたたちって、ホント、苦労の多い

カップルだねえ」

「私も、マジでイブの夕方に学校来ようかなあ。早乙女くんの補修が終わる頃」

「それで、帰り道に渡すんだな」

「へへ」

 美誉子は照れながら、カフェオレを啜った。

「なにも、家近いんだから、夜に渡しに行けばいいじゃない?」

「それがさ、駄目なのよ」美誉子の頬がぷっとふくらんだ。「最近さあ、暗くなってから、出掛けようと

すると親がうるさくてさあ。どこいくの? 何時に帰るの? って。それで、正直に早乙女くん家です、

って言うと露骨に嫌な顔するしさ。門限までにちゃんと帰りなさいよ、とかさぁ、もう」

「あれ? 美誉子ん家って、結構門限とかユルくなかった?」

「ユルユルだったよ。一応8時ってことになってたけど、あってないようなもんで。それが、

今は7時だし、1分でもすぎるとウルサイウルサイ」

「やっぱ、アレ……以来?」

「そう。アレ以来」

 美誉子は思いっきり渋い顔をする。

 アレというのは、晃の飛び降り事件のこと。母親を亡くした直後の晃が、衝動的に―――ということに

なっている―――学校の屋上から飛び降りてしまうという出来事があった。

 止めようとした美誉子が、その時ケガをしてしまったこともあり、美誉子の両親は晃に対してかなりの

不信を抱いているのだ。そのせいで、晃との交際は反対されているし、放任状態たった美誉子は、

いきなり厳しく束縛されるようになった。

「今更、キビシクしたって、遅いってのにねえ」

「やっぱ、まだ、つきあうの反対されてるんだぁ」

 美誉子は不機嫌そうに頷いて。「どうして、わかんないかねえ。彼は、もう飛び降りたり

しないってこと」

 大きな溜息。

「だよねえ……今の早乙女くんて、あんなことしたって信じられないくらい、明るくて元気だもんね」

 桜は、ふと気づいた。

「ねえ、早乙女くんてさ、今頃、卒業のための補習うけてるってことはさ、受験勉強どころじゃ

ないんじゃない?」

「うん……今年はほとんど諦めてるね」

 美誉子は少し辛そうに応えた。

「そっかぁ……大変だったもんねえ。受験勉強したところで、卒業できなきゃ、大学行けないもんなあ。

彼って、どういう大学狙ってるの? 理系だよね?」

「こないだまでは、薬学系のつもりだったらしいんだけどね」

 美誉子はそこでいきなり、場違いなくらい幸せそうな笑顔になって。

「N大の農学部で、醸造やるって、決心したみたい」

「おおう」

 桜は大げさにのけぞった。

 N大の醸造関係の研究は、設備も実績も全国で指折りのレベルである。

「それって、あれかい、いずれ乙女酒造を継ごうという、そういう意図があるわけ?」

「いやあ、そこまで考えてないみたいだけど。大体、まだきちんと本家の養子になったわけじゃないし」

「そうなんだ?」

 晃の亡母は、地元有数の酒造会社である乙女酒造の当主の妹であった。母一人子一人であったため、

晃が早乙女本家の養子になる話が進行中であるが、まだ決着はついていない。

「色々難しいみたい。でも早乙女くんとしては、酒造の仕事に興味が出てきたし、伯父さんの手伝いが

できれば、亡くなったお母さんも喜ぶかなって、そう思ってるみたいで」

「なるほどねぇ」

「伯父さんが浪人してもいいって言ってくれたから、マジで目指すって、言ってるよ」

 美誉子は鼻歌でも歌い出しそうなほど、嬉しそうに言った。

「ほほー、そうすると、また大学も一緒ってわけね?」

 桜はにやにやしながら、幸せそうな笑顔を見上げて。

「いやいや、農学部は校舎が違うし」

「あ、ねえねえ、すごいこと思いついちゃった」

 桜は胸の前で、こぶしと手の平を打ち合わせた。

「早乙女くんがさ、もしも乙女酒造を継いだら、美誉、玉の輿じゃん!社長夫人だ!!」

 美誉子は冷めたカフェオレにむせた。

「ちょ……ちょっと、それ、むちゃくちゃ捕らぬ狸の皮算用ってヤツじゃない?」

 ハンカチで口を押さえながら。

 それでも頬がみるみる赤らんでくる。

「いやいや、あり得るあり得る。ふふふ。楽しみだなあ」

「そ、そんな先のこと、どうなるかわかんないでしょっ」

「うふふふ、がんばりなさいよぅ」

「がんばれって……何をよ?」

 美誉子は火照った頬を、お冷やのグラスで冷やした。

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