Hard or Sweet?



「ねえ、もしかして初めてなの?」

 あたしの躰のこわばりを感じたのか、優しい声がそう訊いた。

 否定しようかと思った。しかし、経験者と同じ扱いで耐えられる

自信がなかったので、

「……はい」

 結局正直に答えた。

「やっぱりそうなの……じゃあ、やめとこう」

 そう言って、先輩はあたしの上から身を起こした。



 いい気になっていたのかもしれない。

 第一志望の大学に首尾良く潜り込むことができ、念願のミステリ研究会に

入部したあたしは、貴重な女子、しかも、自分で言うのも何だけれど、

小柄で小動物めいた、男性サイドから見れば扱いやすそうなタイプ……よく、

プレーリードッグっぽいと言われる……なので、男子の先輩たちから、ちやほやされまくっている。

正直言うと、その飾り物のような扱いには閉口することもあったけど、悪い気はしない。中には、

即座に交際を申し込んでくる短絡的な人もいたけれど、特定の彼氏を作るよりは、しばらくは大勢の

男の子たちと友達として楽しく過ごしていたいと思い、盛夏を迎えようとする今も、フリーの

ままでいる。

 けれど、ミス研の3年生に、気になる先輩がひとりだけいた。

 鬼編集長と呼ばれるその人は、他の先輩たちとは違って、あたしへの態度に常に紳士的な一線を

堅持し、お人形のようにちやほやはしなかった。優しいのだけれど、常にその人の周りには穏やかな

バリアがあった。彼の愛するハードボイルド小説の主人公たちのように。

 自分は書かないくせによ、と陰口をたたかれるほど、彼の原稿への校正は厳しいものだったけれど、

書評とも言えない、あたしのつたない感想文に対しても、丁寧に赤を入れてくれるその姿勢には

感動した。それに、陰口を言っている部員たちも、彼が編集に徹していていくれるお陰で、会誌の質が

上がったことは認めているはずだ。1年生のあたしが言うのもなんだけれど、ここ数年の会誌の

バックナンバーを見る限り、彼が編集長になる前となった後では、物理的な誤字脱字の量だけ見ても、

雲泥の差だ。

 片手に煙草、片手に赤ボールペンで、校正に没頭する彼には、話しかけるのも怖いくらいの緊張感が

漲っていて―――そして、とてもセクシーだと思う。



「や……やめないで下さい」

 あたしは必死で彼の首にしがみついた。

「最初は、本当に好きな人とやった方がいいよ」

 彼の手が、あたしを宥めるように髪をゆっくりと撫でた。

「あたし……好きです。三浦先輩のこと」



 あたしと個人的に飲みに行きたがる男子は何人もいたけれど、三浦先輩はそういうそぶりすら

見せなかった。集団で飲みに行ったことは何度もあるけれど、ふたりきりになれたことは無かった。

 しかし今日、突然チャンスが訪れた。4コマ目が休講になり部室に行くと、珍しく三浦先輩ひとり

しかいなかった。試験前で、みんな、いつになく真面目に講義に出ているのかもしれない。

 先輩は、今日はもう講義がないので、これから古本屋に行くところだ、と言った。

 あたしはすかさず、よければ同行させてもらえないか、古本の探し方を教えてくれないか、と頼んだ。

 彼は快くそれを承知してくれ、日が暮れるまで、ふたりで古本屋巡りをした。そしてそのまま居酒屋に

なだれ込んだ。個人的に話してみると、三浦先輩はとても話の面白い人だった。それに、あたしの話も

楽しそうに聞いてくれた。

 笑うと切れ長の目がますます細くなって、とても優しい表情になることを発見し、その顔が見たくて、

あたしは一生懸命にしゃべりまくった。

 そして。

 事実少々飲み過ぎたのもあるのだけれど、調子に乗って、言ってしまったのだ。

 先輩、あたし、酔っぱらっちゃったみたいなので、アパートまで、送ってくれませんか―――



「……うーん」

 彼は、困ったような唸り声を漏らし、

「そうかあ……その気持ちはありがたいけど」

 子供をあやすように、その手はあくまで優しく、あたしの頭を撫でる。

「初めては大事にした方がいい。本当に君を好きな男とやった方がいいよ。俺は、ロクでもないヤツ

だから、止めた方がいい」

 解っていたことだけど……先輩は、あたしをただの後輩としか見ていないってこと。

 でも、悲しい。

「それでもいいです……あたしは、先輩のこと好きだから」

 煙草の匂いのする首筋に、ぎゅっと顔を押しつける。

「えっとね……」

 先輩は数秒言葉を切った。どう言うか、悩んでいるようだった。

「今の俺って、君を抱いても、他の娘とカブらせちゃうと思うからさ。そんな初体験って、嫌でしょ」

 え……

「先輩、今、彼女いないって……」

 さっき飲んでる時、ぽろっとそう言っていた。彼女がいるのなら、いくら好きでもこんなに強引に

迫ったりしない。

「ああ、それは本当なんだけどさ……でも、今現在、心奪われてる女性がいるわけよ」

 やけに文学的な言い回しで先輩は言った。

「片思いなんですか?」

「うん。もう何度も振られてるんだけど、諦めきれなくてさ。ああ、いや、忘れてられる時期もあるんだよ、

他の女の子ともつきあったりしてるしさ。でも、こないだ、会っちゃったんだよ、その娘と。そしたら……」

「やっぱり好きだな、って思っちゃったんですか」

「そうなんだ」

 先輩はふっと笑いを漏らした。自嘲の笑いだと思った。

「だからさ、君も遊びのつもりなら、思いっきりカブらせて、やらせてもらおうと思ったけど、初めてで、

しかも、俺のこと真剣に思ってくれてると聞いたら、とてもやれないよ」

 つまり。

 先輩は、あたしとは少なくとも今のところ、つきあう気がないと言うことで。

 つまり。

 あたしの捨て身の告白は却下されてしまったということで。

 つまり。

―――ふられちゃったのか。

「……それでも」

 泣きそうになったけれど、ぐっと涙をこらえた。ここで涙は卑怯すぎる。

「ん?」

「それでもいいです。先輩。カブらせてもいいですから」

 それでも、あたしは、この人が好き。

 ますます好きになってしまった。

 しばらくの間、先輩は無言で、相変わらず優しくあたしの頭を撫でていた。

「うん……そっか。わかった」

 そして、先輩はそう言った。

「抱かせてもらう。でも、最後まではしない」

「え……そんな……先輩っ」

 唇がやんわりと指先で塞がれた、

 部屋は暗いけれど、先輩が笑顔であたしの顔を覗き込んでいるのは判った。

「君みたいなかわいい娘に迫られて、やせ我慢してる俺の身になってよね。男の美学ってヤツを守るため

なんだから、それ以上言わないで」

 ああ……そうか。先輩を常に取り巻いているように見える、柔らかなバリアのようなもの。

 それは、先輩の美学だったのか……

「キスは、初めてじゃないね?」

 再び、ベッドに押し倒されながら、囁かれた。

「はい……」

 高校のときつきあった彼と、キスまではした。っていうか、ふたりとも奥手で、キス以降進展しなかった

というか……

「……んっ……」

 先輩のキスは、その元カレとのキスとは全然違った。熱い舌先があたしの唇を舐め回し、次第に中へと

入ってくる。唇の裏がこんなに感じるところだなんて、知らなかった。緩めた前歯の間に、すかさず舌が

滑り込んでくる。

 流れ込んでくる先輩の唾液と、煙草の匂いに酔ってしまいそう。

 先ほど脱がされかけたブラウスの上から、そっと乳房に手が当てられた。

 ぴくりと反応してしまうと、先輩は唇を離し、

「怖くなったら言うんだよ。いつでも止めるから」

 暗い中でも、先輩の唇がぬめぬめと濡れているのが判った。その唇があたしの首筋に当てられた。

 ブラウスのボタンがひとつひとつゆっくりと外され、先輩の唇が胸の谷間に降りた。

 つうっと、乳房を舐め上げられ、ブラがずらされて、唇がそっと乳首を挟み、舌先がちろりと

先っぽを舐めた。

 その動きはほんの微かなものだったのに、ぞくっとして、思わず声が出てしまった。

いつの間にか、先輩の片手があたしの背中に回っていて、ブラのホックが外された。慣れてるんだな、と

ぼおっとしてきた頭で思った。

 そうだろうな、きっと三浦先輩はもてるんだろう。校正しているときや本を読んでいるときの

ハードな雰囲気と、他愛なく笑ったときのスイートさ……そのギャップにやられちゃう娘って、

きっとあたしの他にもいっぱいいるんだろう。

 露わになった乳房を、先輩は両手でやんわりと撫でるように揉み、そして交互に左右の乳首を舐め回す。

 じゅん、と下半身が熱くなる感じがした。胸を弄られているのに、下腹の方のむずむずが激しくなり、

脚をもじもじさせずにいられない。

「気持ちよくしてあげるからね」

 先輩が囁いた。

 いつもより低められた、柔らかい声。吐息が耳にかかって、耳も感じるんだと、知った。

 恥ずかしい……

 恥ずかしいけれど、もっと囁いて欲しい。もっと恥ずかしい場所に触れてほしい。そう思わずに

いられない。

 脚の間に入っていた先輩の膝が、ぐっとあたしの股間を押し上げた。

「あんっ」

 ずきん、と痛み混じりの快感が突き上げて、あたしは思わず悲鳴を上げた。

「ごめん、痛かった?」

 先輩が慌てて訊く。

「……痛く…ないです」

 気持ちよかった……

「無理しないでね」

 そう言いながら、先輩はあたしのジーンズのボタンを外した。おそらくわざとゆっくりとファスナーを

下ろし、そこに手を入れてくる。先輩の手は、ショーツの上から恥ずかしい部分を覆い、小刻みに揺すぶる。

 ああ、どうしよう。きっとあたし、濡れてる。これだけで、こんなに感じてる。自分で直に触るより、

百倍も感じてる。

 恥ずかしくて、両手で顔を覆う。

 ショーツの生地がぬめりにぬるりと滑る感触がした。先輩もそれを感じてしまったらしく、

細く長い指が隙間を探る。

「ふあっ……」

 その指が割れ目をなぞっただけで、背中が跳ねてしまった。

 ぐっと腰が持ち上げられ、ジーンズがするりと脱がされた。

 決して男性としては大柄ではない三浦先輩だけれど、それでも小さなあたしはやすやすと扱われて

しまう。大きく脚を広げされられ、ショーツ越しに溝を何度も指先でなぞられる。

 じらすように、ゆっくりと、何度も。

 気持ちいいのだけれど、それでも布越しのじれったさに、

 触れて欲しい、直に。その細く長い指で。あたしの一番恥ずかしいところに。

 そう思ってしまう。

 と、その思いが伝わってしまったのか、先輩の掌がショーツに潜り込んだ。

 くちゅ。

 割れ目を指が開いただけで、湿った音が聞こえた。

 やだ……どうしよう。こんなに濡れてる。処女なのに、こんなに濡れちゃうなんて。時々自慰をしてる

ことが、先輩にバレちゃうんじゃないかな……

 と。

 つん、と指先が敏感な突起をつついた。

「あんっ」

 がくん、と腰が跳ねる。

 するりとショーツが脱がされる。

「感じやすいんだね」

 先輩が笑い含みでそう言ってから、もう一度キスをくれた。さっきよりも大胆に、いきなり舌が

口の中に潜り込み、あたしの理性を蹂躙する。

 そうしながらも、指先は一番感じるところを、触れるか触れないかの強さではじく。

 水音が、口元からと下半身からと、両方響いてくる。

「んんん……」

 キスしながらも、呻きが漏れるのを抑えることが出来ない。

 先輩が唇を離すと、

「ああ……」

 自分の声とは思えない、鼻にかかった甘え声の喘ぎが漏れてしまった。

 先輩はあたしの脚を持ち上げると、内股に唇を当て、舌を這わせた。白い内股にピンク色の舌を這わせる

先輩の表情がとても色っぽくて、自分が今こんな官能的な愛撫を受けていることが信じられなくて。

 でも、あたしは先輩の繊細な動きひとつひとつに、全身を打ち振るわせて感じている。

 突然、ぴちゃ、と熱いものが敏感な場所に押し当てられた。

「ああんっ……三浦先輩……そんなのっ……」

 先輩があたしの脚の間に唇を触れさせていた。

「そんなこと……やめてくださいぃ……」

 腰を引こうとしたが、がっちりとホールドされていて動けない。

 舌先が、指とは違う感触で敏感な突起をゆるゆると舐め回す。

「うあぁん」

全身の神経がその突起に集まってしまったような圧倒的な快感。自慰とは比べ物にならない。

 もう、いっちゃうかも……

「本当に嫌だったらやめるけど?」

 と、先輩が少し顔を上げて言った。

 たまらなく恥ずかしかったけれど、あたしは小さく頸を振った。

 先輩は微笑んで。

「指は一本だけにしとくからね」

「え……ああっ」

 先輩の舌先が、入り口を舐め回した。前の方ほど強烈ではないけれど、自分でも良く知らない部分を

舐め回されているという羞恥だけで、気が遠くなりそうだ。

 そっと指が押し入れられた。

「痛くない?」

 じりじりと指を奥へ進めながら、先輩が訊いた。

「大丈夫です……」

 一度、自分でも指を入れてみたことはあるのだが、タンポンを入れたときのような異物感を感じただけ

だったので、それ以来してみたことはない。

 と。

 くいっと、先輩の指があたしの中で曲げられ、腹側の壁がぐいっと押された。

「あんっ」

 ぞくん、と知らない感覚が背筋を駆け上った。

「大丈夫?」

「はい……」

 大丈夫だけど……ちょっと怖い。

「力を抜いてね」

 怖かったけど、先輩の口調と表情がとても優しかったので、あたしは素直にそこから力を抜いた。

 また敏感な突起を舌先が舐りはじめた。

 そして長く細い指が、揉みほぐすように優しく、あたしの中で蠢く。

「うあ、せんぱ……ああっ」

 急速に高まっていくのが判った。

 躰の震えが制御できない。

「あああっ」

 ちゅうっと突起を吸われた。

「やだっ……先輩……ああんっ」

 浮遊感が全身を押し上げた。本当に浮いているかのようだ。

「あん、ああ、だめぇ……」

 シーツを強く握りしめた。何かに掴まっていないと、本当にどこかに飛んでいってしまいそうな

気がして。

 瞼の裏で閃光がはじけた。

 自慰で得られるオーガズムの何倍も強烈だった。

 先輩は、あたしの喘ぎが治まるまで、ずっと強く抱きしめていてくれた。

 そして、額に唇を触れて、

「可愛かったよ」

 そう囁いた。

 そう思うなら、先輩の彼女にして下さい……そう言いたかったけれど、また拒絶されることは判って

いたから、口にはしなかった。

 先輩は、結局ずっと服を着たままだったな、とTシャツ越しの体温を感じながら思った。

 ぼーっとしているあたしを、先輩は丁寧にタオルケットでくるみながら言った。

「ちょっとトイレ貸してね」

「どうぞ……」

と、答えてから気付いた。

「あっ……そんな、先輩……」

 あたしで手伝えることがあれば……口でとか、したことないけど……

「いいから」

 先輩は微妙に前屈みでトイレに向かいながら、

「汚したりしないから、安心して」

 笑って言った。                             
FIN.




    

あとがきのようなもの

今回も素人小説を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました@(人ェ-)@謝謝@(-ェ人)@謝謝
この作品は、5万ヒット記念企画として、樹下シリーズの脇キャラのうち、18禁してほしいのは誰か、
という投票を読者様にして頂いた結果、書いたものです。
三浦、ダントツでした(o ´д)(´д`o)ネー
どり的にも好きなキャラですが、読者様にも愛されているようで、嬉しいです(。-_-。)ポ

しかし、悩んだ結果書いたのがコレで、18禁というよりは正確に言えば、15禁になっちゃいました。
さらっとした18禁よりは、よっぽどエロ度高いとは思いますが(笑)
乙女系にしたいなと思って書き始めたはずが、プレーリードッグちゃんが積極的だわ、エロいわ、
乙女じゃないっての_| ̄|○
さりげなく『Kissの事情』(お題短編)の後日譚だったりもするのですが、お気になさらず(^_^;
これに懲りず、また三浦を応援して頂ければ、幸いでございますm(__;)m

これとともに書いたのが『Mistake』なのでございますがどり的には三浦を思う存分いじれて(笑)
どちらも楽しゅうございました。

ではでは、暑い日が続きますが、読者様各位におかれましては、くれぐれもご注意してお過ごし下さいませ。

心からの感謝を込めて……                          2006/7/29 どり拝


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