不運な夜 について

この企画は、どりが宵待創庵・こおだ育海様に、サイト5周年記念&『夢から夢へ』連載応援として
貢いだ短編に、こおださんがマンガをつけて下さったお宝であります。・゚・(ノー`)・゚・。

貢いだころのどりは『まだ君に出会っていなかったころ』の2章あたりを、ひーひー言いながら
書いておりました。
エロシーンをたくさん書かねばならず、段々ネタも切れてきて、思い余って
「この時期の晃が、もしミキちゃん(こおださんのキャラ)に出会っていたら、どーなっただろう?」
と考えてしまい、勢いで書いて無理やりこおださんに送りつけたシロモノであります。
『まだきみ』の1節とも言える短編でもあります。

エロキャラ(こおださんごめんなさいm(__;)m)同士ではありますが、濃ゆい組み合わせなので、
やらせてしまうと収集がつかなくなりそうですので(爆)エロはございません。
都会の片隅で出会った刹那的な2人の会話と、こおださんの雰囲気のある大人な(*ノノ)絵を
お楽しみ頂ければ幸いでございますm(__)m

(宵待創庵様では、既に先行公開して頂いております)


   


 不運な夜
(途中に1pマンガがあります♪)


 ラブホテルの受付で、他のカップルと行き合わせると、それが別に顔見知りでなくても、なんとなく

気まずいものだが、ミキは毅然とした態度を崩すことはなかった。むしろ、連れの男の方が、なんとなく

顔を背け気味で、従業員の手しか見えないフロントで鍵を受け取った。

 行き合わせたもう一方のカップルは、女の方が明らかに年上であり、チェック・インしたのも女で

あったが、やはり始終うつむきがち。それに比べ、連れの男は明らかに若く―――どう見ても高校生だわ、

とミキは値踏みをした。その男……少年は、うつむくこともなく、視線を下げることもない。

 ラブホテルですれ違った他人などに興味を示すことなど、普段のミキではあり得ないが、その少年を

観察してしまったのは、その容姿ゆえであった。


 なんて綺麗な子……


 思わず数秒見とれてしまったほど。

 少年は物怖じする様子もなく、ぶしつけなミキの視線をしっかり受け止めさえした。


 ハーフよね、多分。


 白い肌に落ちる長めの前髪は、艶やかな栗色。影の深い瞼と長い睫毛に彩られた瞳も、髪と同じ色。

Tシャツとスリム・ジーンズというシンプルな服装も、手足の長さを強調している。


 十中八九、援交ね。


 ミキはそう断じて、行き会わせたカップルをフロントに残し、連れの男と共に先にエレベーターに乗った。

 援交と判断したのは、少年の持つ美貌と場慣れした様子のせいもあったが、連れの女がいかにも金を

かけていそうな身なりをしていたからだった。


 それとも、あの子はモデルか芸能人の卵で、相手の女はプロダクションの社長、もしくはパトロン

だったり……


「イヤだね、混んでるラブホって」

 上昇するエレベーターの中で連れの男が言い、ミキの妄想は中断された。

「そう?別に私は気にならないわ」

 週末の夜に混んでないラブホっていうのも、問題があるような気がするんだけど。

「さすがミキちゃんだね」

 少々嫌味を含んだ口調で男が言い捨てた。


 今夜はハズレだったみたいね、とミキは早々にため息を吐いた。






 やっぱり大ハズレだったわ!


 ミキは、エレベーターからヒールの靴音も高く、フロントのある1階に降り立った。

 チェック・インしてから2時間も経っていなかった。


 相性うんぬんの問題じゃないわよ!


 怒りにまかせた早足のままラブホテルのエントランスを出ようとして……立ち止まった。

 雨が降っていた。

 合コンの会場から男と連れだってホテル街に向かう間にも、小雨がぱらついていたが、今や雨は

道路に水たまりを作るほどに強くなっていた。


 なんてついてない夜なの……


 ミキは今夜何度目かのため息を吐き、ハンドバッグの中を探ってハンカチを探した。せめて頭に

載せて走ろうと思ったのだった。

 と。

「タクシーを拾えるところまで、送りましょうか?」

 突然背後から柔らかい男の声がかけられた。

 振り向くと、先ほどチェック・インで行き会わせた美少年が微笑んで立っていた。

 その手には傘。ただし明らかに女物。

「……どうせなら、駅まで送って欲しいわ。タクシーで帰れるほど、お金がないの」

 少年はちょっと不思議そうな顔をしながら傘を開いた。

「俺も駅に向かいますから、それは構いませんけど、タクシー代くらい、彼氏にもらってきたら

どうです?」

 ミキは、少年の隣に並びながら肩をすくめ、

「あんな男、彼氏なんかじゃない。それに、せっかく逃げ出してきたのに、タクシー代もらいに

戻るなんてゴメンだわ」

「なるほど」

 少年はくすっと笑って歩き出した。

 きゃしゃに見えた少年は、並んでみるとミキよりも10センチは背が高い。傘はミキの方にわずかに

傾けられている。


 扇情的なネオンが並ぶホテル街の暗い道には、ひとつ傘の下で肩を寄せ合うカップルが多く見られたが、

ふたりは人混みを縫うように足早に駅への道を急いだ。

「君こそ、お客さんにタクシー代もらえばいいじゃないの。いかにもセレブっぽい女性だったじゃない」

 年下の男に笑われたのが少しだけ腹立たしく、ミキは憎まれ口気味に言った。

「お客さんじゃないですよ。一応自由恋愛……ってか、フリーセックスかな。よく言われるんですけどね、

援交だろって」

 少年はミキの口調に気分を害する様子もなく応えた。


……援交じゃないのか。


「フリーセックスだったら、私と同じだわ」

 ミキがそう言うと、少年は、

「ただし、俺の場合はほとんどが一夜限りのおつきあいですけどね」

「あら、私もそうよ。セックスは一夜限りだから、本気になれるのよ」

「同感です」

 少年はそう言うと突然、ノースリーブからむきだしのミキの二の腕を掴み、引き寄せた。

「何!?」

 ミキはその手を振り払った。

「ああ、すみません、水たまりにはまりそうだったので」

 足下を見ると、アスファルトが欠けた穴に深い水たまりができていた。

 ミキは少年の腕に、自分の腕を絡ませた。

「どうせなら、駅までちゃんとエスコートしてよ」

「かしこまりました、お姉様」

 少年はおどけて言った。


……お姉様か。


 この子は、彼よりも年下だろうか。


 ミキは離れて暮らす弟のことを思い出した。

 少年の腕は温かく、そして見た目よりも筋肉質で力強かった。


 頼りないほど細かった彼の腕もこんな風に、力強く男らしく成長しているのだろうか……




「今夜の彼は、あんまり良くなかったんですか? 逃げ出してきたってことは」

 雨の音を通して、少年の声は柔らかく耳に届く。

「良くないどころじゃないわ、大ハズレよ。下手くそなくせに、自分本位で」


 ホテルに置き去りにしてきた男のことを思い出すと、ミキの胸に染みのように不愉快さが蘇ってきた。

ミキの反応を観察することもなく、ひとりで腰を振りまくり、さっさと達してしまった上に、

「よかった?」……最悪。バスプレイに誘うふりをして、先にバスルームに男を入らせ、その隙にさっさと

服を着て逃げ出してきたのだった。


「それは最悪ですね」少年はくすくす笑いながら「お姉さんほどの女性でも、ハズレを引くことも

あるんですね」

「そりゃ、いくらでもあるわよ、合コンなんて本当にピンキリなんだからね……そういう君はどうしたの。

今夜の恋人を置き去りにしてきたの?」

「一戦交えようとしたところで、彼女の携帯にダンナさんから電話が入りましてね。それこそタクシーで、

すっとんで帰りましたよ」

 少年のくすくす笑いは止まらない。

「人妻かあ」

 少年の連れの女を思い浮かべ、おどおどした態度といい、そう言えば確かに人妻っぽかった、とミキは

納得した。

「ゆっくり泊まっていっていい、って言われたんですけど、元々泊まるつもりはなかったし、風呂入って、

ちょっとゲームして、出てきました」

「他の女性を呼び出せばいいじゃない」

「そんな女性いませんよ。一夜限りって言ってるじゃないですか」

「そっか」

 ミキも笑った。


 駅の灯りが見える頃には、絡みついたミキの腕は、少年の腕にすっかり馴染んでいた。


「……心底満たされたことって、ありますか?」

 少年が突然訊いた。

「え?」

 思わず聞き返してしまったのは、その言葉の唐突さにもあったが、少年の口調が真剣なものだったから。

「セックスで、心から満たされたと感じたことはありますか?」

 少年は雨の中に立ち止まって、もう一度言った。

「なあにそれ。私を誘ってるわけ?」

「違います。ただ、訊きたかったんです。お姉さんなら、答えてくれるかと」

 真摯な栗色の瞳は、ミキではなく、雨の向こうの闇に向けられていた。


 ミキも立ち止まり、考えた。

 短い間ではあったが、真剣に考えて……そして。


「……ないわ」


 そう答え、少年の腕を引っ張るようにして駅への歩みを再開した。

「躰を満たしてくれる男ならたくさんいる。だけど、心は難しい」

「そうですか……」

 少年は残念そうな、しかし、どことなくほっとしたようにそう呟いたが、ミキはそれにかぶせるように

言い放った。

「でも、私を満たしてくれるであろう男は、存在しているの」

 ミキの言葉に、少年は息を飲み。

「え……じゃ、その男性と寝れば……」

「手の届かない人なの。触れてはいけない人」

「ああ……」

 少年はどう納得したのか、口をつぐんだ。

「でもね、セックスに心なんていらないのよ。むしろ邪魔だわ」

「そう……でしょうか」

 少年は言葉を選ぶようにゆっくりと、

「でも……もし、お姉さんがその満たしてくれるであろう男と……それって、本当に好きな男性ってことだと

思いますけど……寝れたとしたら」

「それはあり得ないのよ」

 ミキは少年の言葉を遮った。

「もしもの話ですよ……寝れたとしたら、その時は……心も必要ですよね?」


 少年は言葉をしつこくつなぎ続け、その一言一言がミキの、手の届かない彼への想い―――弟への想いを

刺激し、苛立たせる。


「あり得ないって言ってるでしょ! 私と彼のこと何も知らないくせに、坊やが生意気言ってるんじゃ

ないわよ!」

 少年から乱暴に腕を放し、声を荒げてしまった。もう駅はすぐそこで、人通りも多かったので、

ミキの声に何人もが振り返った。

 ミキは傘の下から雨の中に飛び出して、駅へと駆け込んだ。少年もそれを慌てて追いかける。

「……すみません」

 少年は駅の構内に入りながら傘を閉じた。

「俺、何も知らないのに立ち入ったことを言ってしまいました。ごめんなさい」

 そして、ミキに深く頭を下げた。

 普通に立っているだけでも人目を引いてしまう美貌の少年が、年上の女に頭を下げているという構図は、

駅の人混みの中では、かなり注目を浴びた。多くの人々がふたりを興味深げに眺めながら通り過ぎていく。

「ちょ、ちょっと頭なんか下げないでよ」

 ミキは慌てて少年の肩に手を添えて、頭を上げさせた。

 頭を起こした少年の表情が悲しそうだったので、ミキは、

「……悪かったわよ。キツいこと言って」そう謝ってから、小さくため息を吐き「君の言うとおり。心も

必要かもしれない……もしも、彼と寝ることがあれば」

 少年は不思議そうにミキの顔を眺めていたが、小さく頷いて笑顔になった。

 そしてミキに傘を差しだして。

「どうぞ、持っていってください。雨、激しくなりそうですから」

「君はどうするの?それにこれ、君の傘じゃないでしょ。女物だわ」

 受け取りを躊躇するミキに、少年は、

「今夜の彼女が忘れて行ったものですけど、もう会うこともないでしょうし、ホテルに預けておくわけにも

いかないし。それに、生意気言っちゃったお詫びですよ」

「……そう、それなら、ありがたく」

 ミキは少年の手の温もりが残る傘を受け取った。金色の柄には、有名ブランドのロゴが入っている。

「かなり高級品よ、この傘。まだ新しいし」

「彼女の金銭感覚からしたら、取りに戻らなきゃいけないほど高いわけじゃないでしょう」

「そうね。彼女の身に着けている物の総額からしたら、百分の一にもならないでしょうね」

 そう言いながら、ミキは吹きだした。

 少年は、またくすくす笑い出して。

「その傘で、お姉さんの今夜の不運、帳消しになるといいんですけど」

「充分だわ、お釣りがくるわよ」


 それに、君と巡り会った幸運もあるし。


 ミキはそう思ったが、口には出さなかった。


 この子とこのまま寝てみてもいいかもしれない。


 ミキは更に少しだけそう思ったりもしたが、それも口にはしなかった。

 心を置き去りにしている者同士、しかもそれを自覚している者同士が抱き合うのは、寂しすぎる。


「じゃ、俺、地下鉄ですから」

 少年は、地下鉄の改札の方を指さした。

「ありがとう、送ってくれて、助かったわ」

「いえ、俺もお姉さんのようなキレイな女性と相合い傘ができて、ラッキーでした」

「坊やのくせに、本当に口が達者ね」

 ミキの言葉に、少年は気を悪くした風もなく、

「気をつけて帰って下さいね」

 手を上げ、目に焼き付くような鮮やかな笑顔を残し、少年はミキに背を向け、人混みの中に身を投じた。

 その細い後ろ姿が見えなくなる寸前に、ミキは呼びかけた。


「君にも、見つかるといいね!」


 見つかるといいね……心を満たしてくれる人が。


 少年はちょっとだけ立ち止まり、しかし振り返らず片手をちょっとだけ上げて、今度こそ、人混みに

消えていった。

                                           
Fin.


こおださんのサイトは→こちらです。ぜひ!(・∀・)

←こおださんへのメッセージもお伝えしますです!

                                     シリーズ目次へ