確信犯9
 

 美誉子は自分の躰から、何かが放出されたのを感じていた。

 その次の瞬間、

「わ……」

と、晃が自分の躰から手を引き抜きつつ驚きの声を上げるのも。

「や…だ……私……」

 美誉子は畳に崩れ落ちるように座り込み、晃の手から液体がぽたりと滴り落ちるのを見た。

「ごめんなさい……」

 羞恥に泣きたくなったが、堪えてティッシュ・ペーパーの箱を探した。

「え? オシッコじゃないだろ、これ」

 晃も屈むと、おろおろする美誉子の顔を覗き込んで、いたずらっぽい表情で。

「潮吹いたんでしょ」

「えっ!?」

「えっ、って、なんでそこまで驚くの?」

 驚いた美誉子に、晃も目を丸くし、

「今までだって、何度もソレらしいのはあったじゃない」

「ええっ?嘘っ」

 たまに晃とラブホで勉強と称して見るAVなどで知識としては知っていたが、それが自分に起こって

いるとは思ってもいなかった。

「そりゃこんなに勢いよく出たのは初めてだったから俺も驚いたけどさ、じわっと吹いて、シーツまで

濡らしちゃうことは、何度もあったじゃん」

「で、でも」

 それは単に濡れ方が激しかったのだとばかり。

「し、潮吹きなんて、特殊な訓練したAV女優さんしか出来ないのかと思ってたから」

 晃はぷっと吹き出し

「特殊な訓練って、どんなんだよ」

 大笑いしてから、

「誰にでも何度でも、起こることらしいよ」

「そうなんだ……」

 失禁してしまったのではないと分かり多少安堵したが、しかし、それでも恥ずかしいことには変わりなく、

美誉子はうつむいた。

「びっくりしちゃった……」

「まあね、確かにびっくりしたけどさ」

 晃の乾いた方の手が火照った頬に触れ、うつむいた顔を起こされると、笑顔があった。

「どうしてこんなに勢いよく吹いたんだろうね。立ってたからかな。それとも……」

 晃の唇が微笑んだまま近づき、

「そんなに感じちゃった?」

 柔らかに触れる唇を感じながら、美誉子は考えていた。


 もしかしたら―――

 私にとって晃は特別だと……そう伝えたくて、でも言葉が見つからなくて。

 それで躰が、溢れてしまったのかもしれない。躰は、とても素直だから―――


「どうしようかな、コレ」

 晃は濡れた手をこれ見よがしに美誉子の目の前にかざして言った。

 ぬらぬらと濡れる掌から目をそらしつつ、美誉子はティッシュの箱を引き寄せ、

「は、早く拭いて……」

 紙を引き出そうとしたが、晃はその手を押しとどめ、

「やだよ、もったいない。いいコト思いついちゃったし」

 不穏に笑うと膝立ちになり、乾いた方の手で自らのトランクスを押し下げた。

 押さえつけていた布が取り払われた途端、ピンク色のペニスは、出番を待ちかねていたかのように

勢いよく飛び出した。そして晃はそれを濡れた手で握り、ゆっくりとしごいた。

 自らの放った液体で濡れて光るそれに、美誉子の目は吸い寄せられ、絶頂から降りきっていなかった

躰の芯が、おき火に酸素が送られたかのように一気に熱くなる。

 美誉子は欲求のままに手を伸ばし、晃の手に割り込むように、それを握りしめた。


 熱い。


 ゆっくりと上下に動かすと、

「気持ちいいよ……」

 目を細める晃の表情に、美誉子はますます躰の芯を熱く濡らす。

「晃……すごい大きくなってるし……堅いよ」

 自分が発した声が、予想していたよりも、遙かに甘く湿っていることに気づく。

「そりゃあ、ね」

 晃はTシャツを脱ぎ捨てると、美誉子の手をそっとそこから外した。

 そして大きな手が美誉子の背中を力強く支え、そのままゆっくりと布団に押し倒された。

「また、俺しか知らない美誉子を発見しちゃったんだから……」

 晃の囁きも、ひどく甘い。

 ぴったりと合わさった胸の皮膚を通して伝わってくる懐かしい痺れが、溜息に変わる。

「ああもう、このまま入れちゃいたい」

 晃がぎゅっと美誉子の太腿にペニスを押しつけながら言った。

「いいんじゃない。どうせさっきも中で出しちゃったし……」

 今妊娠する確率は相当低いだろうと、美誉子はちょっと悲しく思いながら答えた。

「いや、そういう問題じゃなくて」

 そう言いながら頭を上げた晃は、真面目な顔をしながら布団の脇に転がっていたディパックを引き寄せた。

「中、傷つけちゃっただろ。ナマだと雑菌入っちゃうかもだし、精液がしみて痛いだろうしさ。

アルカリ性だから」

「大丈夫だよ、そんなの……」

 むしろ、痛いくらいの方が晃を感じられるのではないかと、美誉子は思った。

「駄目。これ以上傷つけたくないの」

 そう言いながら手早くトランクスを脱ぎ、持参の避妊具をつけた晃は、美誉子の躰を布団の上で

そっと俯せにさせた。

「腰の痣が痛くないように、バックからにするね」

「うん……」

 肘と膝で自分の躰を持ち上げながら、美誉子は気づいた。


 彼は私の躰をこれ以上傷つけないために、気を遣ってくれていたのだろうか? 立ったままの愛撫も、

私にとってはとても恥ずかしかったけれど、もしかしたら彼の気遣いだったのだろうか?


 腰にそっと両手が添えられ、ゆっくりと晃が美誉子の中に入ってきた。

「ふ……ん……」

 ゆっくりと自分の内部が押し広げられている感覚に、声が漏れた。奥へと晃が進むにつれ、閉じた

瞼の裏に、真っ赤な花が咲いていく。中の擦過傷がこすられる痛みさえも、今夜の美誉子には甘美な

ものでしかない。


 違う……


 比べてはいけない、と自分に言い聞かせつつも。


 どうして、つながっているだけで、こんなに……


 ゆるゆると中がかき混ぜられた。

「んんっ……」

 ゆったりとした動きなのに、背筋にびりびりと熱い痺れが走る。

「もう感じてるの?」

 背中に晃の温もりがそっと重なる。

「……うん……」

 小さな声で答えると、熱い手がやんわりと乳房を揉んだ。

 そして甘い囁き。

「美誉子は感じてきたのがすぐ分かる。中が熱くなって、捻れるみたいに締め付けて、それで溢れる」

と、腰と手の動きが急に止まり、

「ねえ、マジで三浦って最後までいかなかったの?」

 このうえなく甘かった晃の声が、いきなり現実的なものに戻った。


 そんなことまで話したんだ! まったく、男同士って……


「……みたいね」

 少々腹立たしく思いながらも、自分が怒れる立場ではないことは重々承知しているので、美誉子は

抑えた返事をした。

「信じられないなあ、コレでいかない男がいるなんて……アイツ、どっか悪いんじゃないの?

仕事のしすぎでED気味なんじゃないのか?」

 晃の言いぐさに、美誉子は思わず苦笑してしまったが、

「この部屋に、晃の気配を感じたって、そんなこと言ってた」

 三浦の言葉をそのまま伝えた。

「え?」

 また晃の動きが止まり、

「どういうこと? だって、俺、この部屋に来たの今日が初めてだし、持ち物を置いて

あるわけじゃなし……」

「多分だけど……私が」

 ずきり、と美誉子の胸の奥が痛んだ。


「ずっと……晃のこと考えてたからじゃないかな」


 晃の手が、すっと美誉子の顎にかかり、仰向けた。横目で見ると、美誉子に覆い被さっている

晃の視線を捕らえることができた。

「つまり、三浦に抱かれながら、ずっと俺のこと考えてたってことだ」

「そう……ずっと」


 ずっと、この人のことを考えていた。

 三浦に申し訳ないと思いながらも、考えずにはいられなかった。


「悪い女だ」

 その台詞の割に、晃の口調も視線も柔らかだった。

「うん……そうだね」

「そういう悪い女は」

「え……わっ」

 晃は美誉子の上半身を、結合した部分を軸に抱き起こした。

 美誉子は布団に座った晃の太腿の上に、つながったまま抱き上げられた。

「ちょ、これじゃ重いでしょっ、脚、痺れちゃうよ」

「重いと思うなら、動いて。痺れないように」

 そう言いながら、晃の手は美誉子の乳首と、脚の間の敏感な突起を忙しなく探り、舌先は首筋を

舐め回す。

「や……あ……」

 そして美誉子の精一杯の僅かな上下運動も、否応なくスポットを突き上げてしまう。

 まずい、これ……

「あんっ……晃っ」

 せめて股間の手だけでも止めようと抑えてはみるが、晃は退けようとしない。

「晃っ……これじゃ、すぐいっちゃう……」

「何言ってるの、さっきは思う存分抱いて、なんて色っぽいこと言ってたくせに」

「だって……」

 晃とつながっている部分、晃に触れられている部分から、次々と快感の波が全身に広がっていく。

「美誉子がいくとこが見たいんだ。俺が特別だって、もっと実感させて……そうすれば」

 ぎゅっと晃が首筋に顔を押しつけたのを感じた。

「もっと勇気が出せるから」


 理性がみるみる溶けていくのを自覚しつつも、それを証明するのはとても簡単なことだ、と美誉子は

思った。ただ、晃の愛撫に身を任せ、自分を解放すればいいだけだ。


「だから、何度でもいっていい」

 台詞の割に晃の口調は優しい。

「……うん……」

「俺だってね」

 熱い息が耳をくすぐる。

「優しいセックスも出来るんだよ。やろうと思えば」

「……知ってるよ」


 そんなこと、ずっと前から知ってる……


 そう思いながら、美誉子は目を閉じ、絶え間なく与えられる快感に身を任せた。 
 
 

 仰向けになった自分の上で、腰をくねらせる美誉子を見上げながら、晃は自分も最終段階が

近づいているのを感じていた。

 既に二度達した美誉子も、三たび登り詰めようとしているらしく、隣室へ漏れることを恐れ極力

堪えていた喘ぎ声が、随分高くなっている。腰を動かすたびに肉の少ない下腹には、中を突き上げる

晃自身の形が浮き出る。

 宙で絡み合った二十本の指が、強く握り合わされ、白い。

「ああ……晃……」

 腕だけでは支え切れなくなったのか、美誉子は晃の上にぐったりと倒れ込んだ。胸に押しつけられる

汗ばんだ乳房の感触が心地よい。

「またいっちゃうの?」

 その囁きに、美誉子は晃の唇に自分の唇を触れて、

「晃は?」

 聞き返した。

「ぼちぼち」

「ぼちぼちって……」

 美誉子は喘ぎつつも笑った。

「美誉子はどうなんだよ?」

 登り詰めかけていることを充分知っていながら、晃は美誉子の腰を押さえつけ、動きを止めて再度訊いた。

「もお、分かってるくせに……」

 美誉子の指先が、晃の乳首を転がし、すんでのところで堪えているペニスが、ぴくりと震えた。

「言わなきゃ分かんないこともあるんだよ」

 いたずら好きの手を押さえ、そう言うと、上気した顔がびくりと驚いたように上げられ、

「ああ……うん……そうだね」

 複雑な笑顔を浮かべた顔を引き寄せ、唇を合わせる。

 濡れた唇同士が、絡み合う舌が、湿った音を立てる。


 しかしもう、所有権を主張するためのキスではない。

 あくまでつながるためのキス。


「痛かったら言うんだよ」

 唇を離し、けれど下半身はつながったまた躰を入れ替える。上になった晃の腰に、美誉子の脚が

絡みつく。晃は細い肩を抱きしめる。

 恥骨をこすりつけるように、突きはじめる。

「……ああっ……」

 それでなくてもキツい美誉子の中が、ぐいっと捻れるように蠢いた。

「気持ちいい?」

 赤く火照った耳たぶを舐めながら訊く。

「気持ちい……」

 泣きそうな声で美誉子が答えた。

「駄目、どう気持ちいいのか、自分の言葉で言わないと」

 そう言って顔を覗き込みつつ腰の動きを緩めると、

「もう、晃は……」

 美誉子は堅く閉じていたまぶたを薄く見開いて唇を尖らせたが、

「えっとね……」

 期待して待つ晃の顔を恥ずかしそうに見上げ、

「……このままずっといかなくてもいいかなってくらい、気持ちいい」

 早口で一気に言った。

「え?」

 晃は思わず腰の動きを止めて聞き返した。

「いかなくてもいいの?」

「だって……」

 美誉子はますます頬を赤らめ。

「いかなければ、このままずっと晃とつながってられるでしょ?」


 ドクン。

 下半身に大量の熱い血液が流れ込み、晃は括約筋にぐっと力を入れて必死にやり過ごした。


「……美誉子ってさ」

 息を荒げながら、

「時々、俺よりよっぽどエッチなんじゃないかって気がする」

「ええっ」

 美誉子は困ったように眉を下げた。

「だって俺はさ、計算して色々言ったりやったりしてるけど、美誉子はさ、天然でそういうこと

言っちゃうんだもん。俺のここに直にガツンと来ること」

 腰をくいくいと動かす。

「それは晃が」

「そんな嫌そうな顔するなよ、別にエッチなのが悪いって言ってるわけじゃないし」

 美誉子は唇を尖らせる。

「だからあ、晃が引き出してるんだってば」

「えー、人のせいにするわけ。私って本当はエッチじゃないもーん、とか言っちゃう?」

 その表情が可愛くて、からかうように更にそう訊くと、

「そうは言わないけどぉ……晃だからなんだよ。晃にだけは、安心してエッチな自分をさらけ出せる

っていうか」

 美誉子は話題そぐわない真摯な目で、晃を見上げた。

「晃は、どんなにエッチなことしたり言ったりしても、さっきみたいに制御が利かないくらい感じ

ちゃっても、私のこと軽蔑したりしないでしょ? だから、安心してエッチになれるってかさ……」

 そう言ってから、卑猥な話題を真剣に話している自分が恥ずかしくなったのか、美誉子は、

きゃー、やだもー、と小さな声で悲鳴を上げ、片手で顔を隠した。


 その直截な言葉はまたしても晃の躰の奥に直に響いた。しかし今度は違う部分に。


 美誉子が顔を隠しているのを幸い、晃は涙ぐみそうになった瞼を閉じ、美誉子の肩に押しつけた。

「……ガツンと効いちゃったよ、今のも」

「そういうつもりじゃなかったんだけどな」

 恥ずかしそうな、けれど笑い含みの答えが返ってきて、背中にしがみついた手と、腰に回った脚に

更に力が込められたのを感じた。

 晃も、美誉子の肩を抱いた手に力を込め、一層強く自分に引き寄せ、

「もう、我慢できないんだけど、いい?」

 そう囁くと、美誉子の手が晃の髪を優しく撫でた。

「うん。晃のいいようにして……」

 ラストスパートにかかると、ふたりともあとは登り詰めるだけで。


 晃は、美誉子が自分の名前を呼びながら、中を痙攣めいて震わせたのを確認した一瞬後に、

極限まで高まっていた熱を解き放った。

 美誉子の中に吸い込まれそうな、痛みを感じるほどの快感に身を委ねながら。


 俺が、彼女でなければならないように―――


 この瞬間だけは、同じ浮遊感の中に、ふたりで漂っていることを実感しながら。


 彼女も、俺でなければならないんだろう。


 晃は、悲しいくらいに強いその確信を得ていた。


 美誉子の震えは治まりきっていなかったけれど、漏れるのを恐れて、速やかに、温かで優しい

そこから出た。

 美誉子に背を向けて始末をしていると、ひくっ、としゃっくりのような微かな声が聞こえた。

 美誉子が泣いていた。横たわったままで、半ば枕に顔を埋めて、押し殺すように。

「どうしたの、やっぱりどこか痛かった? 腰? それとも中?」

 慌てて尋ねる晃を、美誉子は泣き笑いの表情で見上げ、

「違うって……」

 晃は美誉子の隣に横たわり、肩に腕を回した。

「どうしたの?」

 美誉子は、間近に寄せられた晃の頬にそっと掌を触れた。

 愛おしげに。

 そして言った。


「私……晃の子供のお母さんになりたい」


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