カレとふたりでドコ行こう?最終回

   

 やっと解放されて、ぐったり疲れ切って自室に戻ると、彼からメールが来ていた。
 飛びつくように携帯を開くと、

<行きたいトコ、思いついた?>

 タイムリーにメールをくれた嬉しさをおくびにも出さないように、ひとつ深呼吸してから、

<まだ。渡瀬は?>

 ことのほかぶっきらぼうにレスをした。
 じっと画面を見て待っていると、期待した通りにすぐに再レスが来て、

<スキーかスノボっての、どうだろ?>

 あっ、その手があったか!
 うん、それは良い考えだ。至って健全だから、父だって、文句はつけられないだろう。
それに顔が隠せるから知り合いに出会ってしまっても逃げられそうだし。

 彼とスキーかスノボ、と考えただけで、先程までのぐったり感が吹き飛んで、うきうきしてきた。

<ナイス、すごく良いと思う! 行こう行こう!!>

と、勇んで文面を打ち、送信ボタンを押し……そうになり、また深呼吸した。これじゃ、
大喜びしてるのが丸わかりだ。

<いいんじゃないの。ちょうど雪降ったし>

 また打ち直し。
 しかし何やってんだ>自分。

<じゃ、その線でいこっか。スキーとスノボどっちがいい?>

 うーん、どっちがいいかなあ。どっちも好きだし、得意だけれども………あっ、しまった、昨冬は
受験生でどっちもロクに滑ってないから、板、チューンアップ出してないじゃんよ!
 それにウェアが一昨年のだから、デザインもヤバいだろうけど、サイズ、いけるかな? 
丈ももちろん心配だけど、肩! 棒高跳のせいで俄然逞しくなってしまったこの肩が
一昨年のウェアでイケるだろうか!?
 うわあ、お年玉で、ウェアだけでも初売りに買いに行けるかな? ってかこのスケジュールで
初売り行く暇なんてあるのか!?
 急いでウェアと板、見てみなきゃ!

 様々不安要素を思いついてしまうと、いてもたってもいられなくなってきた。
 どうしよう、とちらりと時計を見ると、もう大概深夜だったけれど―――しかしやっぱり携帯を
放り出し、納戸を漁るべく再び離れを飛び出した。

   

「ありがとう。助かったよ」
 早朝の駅のロータリー、まだ新車の匂いがするパジェロ・ミニの助手席で、シートベルトを外し、
車から降りようとすると、
「えっ、大樹くんは降りなくていいよ? 寒いし」
通勤ついでに送ってくれた大樹くんまでが、いそいそと運転席のドアを開けた。
「中まで荷物持ってってやるよ」
「い、いらん! ひとりで持てる!!」
 荷物持ってやる、なんて良く言うよ! 渡瀬の顔を一目見たいだけだろうが!!

 両親と照には、堅く口止めをした。特に、香誉ちゃんには話さないでくれと―――学校関係者だから
―――何度も頼み、納得してもらった。しかし、祖父母には話さないわけにもいかず、
すると大樹くんだけ知らないってのも、何かと不都合なので……
 当然、大樹くんにも、香誉ちゃんにはしばらく内緒にしていてくれと強く頼み込んだ。
大樹くんは、わかったわかった、と答えたけれども……心配だ。照の次くらいに信用できん。
返事は至って軽かったし。
 いっそ香誉ちゃんには話してしまって、香誉ちゃんのところでストップしてもらった方が
安心だろうか、と、思わないこともないのだが、なんというか、何故か香誉ちゃんに話すのは
家族に話すよりも、更に恥ずかしい気がして、ものすっごい抵抗感がある。
 香誉ちゃんの恋バナは散々聞かせてもらってるのに、何でだろう?

「いいってばっ!」
 降りるなと言ったのに、小雪のちらつく中、大樹くんは車の後ろに回り、バックドアを開くと
素早くスノボケースを引きずり出した。私も続いてバックパックを足下に降ろす。
「遠慮すんなって、待ち合わせ場所まで持ってってやるよ。彼氏まだだったら、
くるまでつきあってやるし」
「いらんっ! 病院遅れるよっ?」
「だーいじょうぶ、30分も余裕見て出てきたんだからー」
 そう言う大樹くんの手からスノボをひったくるが、その隙に今度は、足下に置いたバッグを奪われる。
取り返そうとするが、今度はスノボに動きが妨げられて、奪えない。
「んもーっ! いいってゆってんでしょっ」
「ヒミコの兄貴分としては彼氏に挨拶くらいしなきゃだろ?」
「それこそいらんわっ!」
 ビビってひいちゃうだけだっつーの!
「さ、いくぞ。どこで待ち合わせ? コンコース?」
 大樹くんはバッグをしっかりと抱えると、先に立って駅構内へと早足で向かい始めた。
「ちょ……大樹くんっ、マジ止めて、彼、ビビっちゃ……」
 慌てて追いすがろうとした瞬間、背後でクラクションが鳴らされた。ロータリーの停車待ちの
車のどれかが鳴らしたらしい。
 なにせ正月3日の朝の、地方都市のターミナル駅のロータリーである。当然送迎の車でロータリーは
いつになく混み合っている。ロータリーはもちろん基本的に駐停車禁止であるから、私たちが
車を離れようとしているのを見て、誰かがイラついてクラクションを鳴らしたのだろう。
「ちっ、仕方ねぇ。残念だ」
クラクションに立ち止まった大樹くんは舌打ちすると、ぐっと私にバッグを押しつけ、
それからコートのポケットからくしゃくしゃの千円札を2枚出すと、昼飯代だ、と、
私のウェアのポケットに押し込み、
「気をつけて行ってこいよ」
ぞんざいに言うと、走って運転席に戻り、すぐにエンジンをかけた。
「あ、うん、ありがとう!」
慌ててバッグパックを地べたに置き、路肩から離れようとしているパジェロ・ミニに、
ぶんぶん手を振った。

……ああ、助かった。
 混んでて幸いって感じ?
 それにしてもお小遣いまでくれるとは思わなかったな。

 ふう、と大きく息を吐く。
 スノボとバッグを背負いなおそうとし……気づいて、新しいウェアと帽子をできる範囲で整える。
昨日、スポーツ用品店の初売りで慌てて買ったものだ。ウェアは当然メンズなので(やれやれ)
丈と肩幅はまだしも、胴や腰回りはかなりぶかぶか。でもデザイン的にはクールで結構
気に入っている。モノトーンのチェックの上着に、ダークブラウンのパンツ。
 一方、ウェアは何とか間に合ったのだが、スノボ板のチューンアップは、年末にショップに
出したのでは今日に到底間に合わないので、曽根家に持ち込んで道具を借りて、自分でできるだけの
ことのみやった。とは言っても、古いワックスと錆を落とし、新しくワックスを塗り直しただけだが。
とりあえず、今日はそれほど真剣に、上級コースでガチ勝負! という展開にはならないと思うので
……一応デートだし、明日はふたりとも部活だし……多分。おそらく不自由なく滑れるだろう。
 ちなみに、スノボにしようと申し出たのは私で、何故かというとスキーは……私は多分、
デートには上手すぎるので。なにせ小学校6年間、本気で競技としてやってたから。

 シューズの入った重たいバックパックを背負い、スノボケースを肩にかける。思わずよいしょ、と、
小さくかけ声をかけてしまう。
 スキー場へは毎冬大概車で連れてってもらうから、こうして自力で全て荷物を担いで電車で
出かけるのは初めてのことだ。今更ながら、ボードってこんなに荷物多かったっけ、って感じ。
 もちろん今日だって、市内や近郊のスキー場にすれば、誰かしらに車で送迎してもらうことは
できただろう。その方が絶対楽だってことも、わかってる。

 でも、そうしなかったのは―――移動の最中も、ふたりだけでいたかったから。
 せっかくの機会だもん。できるだけ、ふたりきりでいたいじゃん!

 渡瀬もそう思ってくれたようで、スキー場は、新幹線で40分ほどのところにある、
駅直結の利便性の良いスキーリゾートにすんなりと決まった。

 まあもちろん、近場のスキー場じゃ、学校関係者に当たる確率が高いし、それに車で送ってもらうと
したら、家族の誰かしらに会わせなきゃいけないってことになるということも鑑みたんだけど。


 駅構内は決して明るくはないのだけれど、ジャケットのポケットからサングラスを出してかける。
まだ地元駅であるから、学校関係者とすれ違ってしまう恐れがあるので、パッと見、私とは
判らないように……できれば男子に見えることを期待して。伸びてきた髪も、長髪の男子っぽく
見えないこともない長さだし、ニット帽を目深に被ったからメンズっぽさ更にアップのはず。
 数秒瞼を閉じて、サングラスの暗さに目を慣らしてから、駅の構内に足を踏み入れてコンコースを
見回すと、帰省客でごった返しているにも関わらず、彼の姿はすぐ見つけることができた。
切符売り場脇の掲示板の前に立っている。
 ちらりとサングラスをずらしてその姿を確かめると、カーキ色のウェアに赤のキャップ。
アーミーっぽいデザインが、大柄な彼の体格に良く合っている。
 彼も私を見つけたようで、手を高く上げた。
 遠いし、混んでるし、キャップの庇の陰になってるし、表情は見えないのだけれど、
きっと笑顔だろうと確信できた。
 私の頬も、自然とゆるむ。
 こんな顔してちゃいけない、嬉しさを初っぱなからあからさまに出しちゃうなんて、
プライドが許さん……とも思うのだけれど、笑みが抑えきれない。
 大荷物にも関わらず、つい早足になってしまう足も。

 やだもう、私ってば、どうしようもなく嬉しがってる。

 人混みを縫って彼の前にたどり着くと、期待通りの柔らかな笑顔が―――大好きな笑顔が
私を見下ろして。
 その笑顔を見た途端、年末からこの方、母や照や大樹くんのからかいや、じと〜っとした
湿っぽい父の視線に耐えてきたストレスが、スカーンと一遍に吹きとんだ。

 やっぱり、私はこの人のことが、好きだ。
 だって、今日一日一緒にいられると思うだけで、こんなに心も躰も、ふわふわと雲のように軽くなる。

 彼は弾んだ声で。
「おはよっ。今日はよろしくな」
 何を今更よろしくって……と、思ったけれど、
「おはよう、こちらこそ」
口が勝手に、やたらすんなりとそう答えてしまっていた。
「はい、切符」
 彼がポケットに入れていた手を出して、切符をくれた。先に買っておいてくれたらしい。
リフト券とセットのお得なヤツだ。
「あ、ありがと、買っておいてくれたの? お金……」
「乗ってからでいい。ホームに行こうぜ。混んでるから早めに並んどこう」
 予定の新幹線までにはまだ少し時間があったが、とりあえず改札を通った。
 通路に出ると彼は、私の肩からさりげなくスノボケースを取った。
「あ、いいよ、自分で持つよ?」
 彼もバックパックだがさすがにボード2枚はキツいだろう。それにせっかく男子ふたり連れに
見えるようにと細心の注意を払ってるっつーに、荷物持ってもらったりしたらおじゃんだ。
「いや、こういう時くらい、持たせろって」
 軽々と両肩にボードをかついだ彼は、少し照れくさそうに。

「だって、一応デートなんだろ?」

……うっ。

 不覚にも、ドキリとしてしまった。
 いやそりゃ今日はデートだって思ってはいたけれど、彼の口から聞くと、やはり格別というか
何というか……

 一瞬凍ってしまった私を促すと、
「行こう」
彼は先に立ってホームへの階段を下り始めた。
 私は慌てて広い背中を追いかけ……その背中が、なんだか今朝はやけに頼もしく見えてしまうのは
気のせいか?
「あ、ありがとうっ」
 慌てて追いかけながらそう言うと、
「こんくらい、お安いご用」
振り向いた笑顔が、これまたやけに男っぽく見えてしまって―――

 彼にボードを持ってもらったことで空いている両手が、ぴくん、と、無意識に動いた。
 ヤバイ。
 今、私、何をしようとした?
 彼の背中が荷物でふさがってなければ、階段下りかけでなければ、衝動的に、その背中に
すがりついてしまったのではないか?

 ああ、ヤバイ、どうしよう。
 彼の背中にすがりついて「今日は一日一緒だねっ」って言いながら、ぎゅーっ、ってしたい。
 とってもしたい。
 すごくしたい。
 掌がむずむずするくらい……


……なんてこったい。
 超ヤバイ。
 今日の私は多分……きっと……おそらく。


 彼にたくさんドキドキさせられてしまうだろう。そしてその動揺を隠しきれないかもしれない……
そんな、とってもヤバイ予感がする……

                                 FIN.

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※初デートラブコメと謳っておきながら、ほとんどホームコメディですいません^^;
らぶらぶシーンは次長編でたくさん(?)出てきますので、今回はここまでってことで(どこまで?)

※この短編絡みで、2枚ほど拍手絵を書く予定です(あくまで予定ですが)

※次の連載は「夕焼け」の長編が先になると思われます。例によってしばしお待ちくださりませ〜m(__)m

                               シリーズ目次