lavender2-2


 先日7組に行った時には、彼と中西は仲良くしゃべってた……ってことは、クラス内では結構
親しくしてるんだろうし、同中の縁ってことで組むってのは大いにあり得る……

 それに思い至った途端、高揚していた気分がガックリと萎えて―――同時に、こんなことくらいで
テンションが落ちる自分が嫌になった。


 先日のお山での突然の進展から今日までの間、大会に向けて部活が忙しくなったせいで、
夕焼け倶楽部は1度も開催できていない。
 いや、開催できたところで、
「どうして前回は、アソコで突然止めたの?」
なんてことは絶対訊けるわけないんだケド!
 そんでもって彼の方も、何事もなかったように……多分しらばっくれてんだろうが……何も
言ってこない。あの日の夜に
<どっか痛めたりしてないよな?>
と、心配する内容のメールが来たっきりで、それ以後は、メールでも電話でもあの夕暮れには
触れようとしない。

 アレは一体、なんだったんだろう?
 あの瞬間だけは、彼が私のことを心から欲していると感じられたのに。
 あの情熱は私の錯覚だったのだろうか?

 そう考えると、胸の奥の方がちょっぴり寒くなる。
 この寒さは―――多分、寂しさ。

 彼の気持ちを信じてないわけじゃないのに、どうしても少しだけ寂しくなる。
 だから、修学旅行の班分けくらいで、こんなに落ち込んでしまうのだろう。
 修学旅行の班ごとき、誰と一緒だろうが構わないはずなのに……


「ヒミコちゃんは?」
 突然海老名くんにはしゃいだ声で呼ばれて我に帰った。
「えっ、何?」
「何って」
 海老名くんも、他の班員も呆れた顔をしている。
「奈良の班行動は、どのコースがいい? って話してんじゃん。全然聞いてなかったの?」
「ご、ごめん」
 慌ててレジュメをめくる。
「何をそんなに考え込んでたのさ?」
 隣のミミに顔を覗き込まれる。
「いや、何ってほどのことじゃ……」
「なんか心配ごとでもあんのお?」
 口調は軽いが、ミミの表情は意外と真剣で、真面目に心配してくれていることがわかる。

 うずうずっ、と胸のあたりが騒いだ。
 相談したい。
 こういうことこそ、ミミに相談するべきだ。
 ミミには今現在大学生の彼氏がいるし、中学時代も何人かの男子とつきあってたそうだから、
こういう場合の男子の心理とか、分析できるんじゃなかろうか……

 でも、それは出来ない―――彼のことは、誰にも話せない。

「ううん、そんなことないよ、大丈夫、ちょっと寝不足でボーッとしてただけ」
 大会に向けて朝練の時間を早めたので、寝不足気味なのも本当のことだ。
「そーお?」
「うん、ありがと、こっからは、ちゃんと集中して話聞くよ。んで、みんなはどのコースがいいわけ?」
 ちょっと無理矢理だったが話を逸らし、なんとか笑顔を振りまいた。


 


 外れろ!

 という私の呪いが届いたかのように、ボールはリングに当たって高く跳ねた。ゴール周りにいた
選手たちは一斉にそのボールに向かって跳び手を伸ばすが、リバウンド合戦で私に敵う選手はそういない。
ファウルぎりぎりまで肘を使って周辺の選手を押しのけながら、誰よりも高い位置でボールを奪取する。
空中にいる間に躰を捻り、本日の県総体1回戦の敵である、越南高校のゴールを向く。コートに一瞬
目を走らせ、先に戻っているディフェンダーの数と位置を確認する。空中でボールを持って姿勢を
変えても、今の私は着地でバランスを崩したりすることはない。棒高跳のトレーニングは、
バスケにも生かされているようだ。
 着地の時点ですでに方向を定めている分、私は周囲の誰よりも早くスタートした。スリーポイント
ライン辺りですぐに待ち伏せていたディフェンダーが体を入れてこようとしたが、彼女の存在は着地前に
確認していたから、容易く抜くことができた。とはいえ、こちとらドリブルしているわけだから、後続の
ディフェンダーもすぐに追いついてくるだろう。
 背後でキュキュキュ、と複数の選手が一斉に方向転換をする、バッシュのこすれる音と共に、
「速攻!」
 という、我がチームのポイントガード、カメちゃん先輩の声が響いてくるが、言うまでもない……と
いうか、その指示の声はある意味作戦だ。
 センターラインの辺りですっと越南の選手が私のすぐ横に着く。もう追いついてきたか。越南高校は、
今年はシードでこそないが、毎年1〜2回戦くらいは確実に突破している、そこそこ強い学校では
あるのだ。さすがに速いな……と思ったら、もう1人も反対側に上がってきていた。
 2人か。
 もうちょっと行けるかな、それともそろそろパスを、と考えつつ、2人のディフェンダーに挟まれた
せまい隙間をちょっと強引に突破……しようとしたら、ダダン、というひときわ大きな足音と共に、
前にもう1人ディフェンダーが現れた。

 3人!

 3人もに囲まれては、さすがに足を止めないわけにはいかない。
 しかし、つい、唇がわずかにほころんでしまった。上手いこと3人も引きつけられたということと、
作戦が見事にはまった嬉しさに。
 足を停めた瞬間、ディフェンダーの間を縫って、真横に速いバウンズパスを出した。パスの方向に
ちらりと視線を走らせることもなく。見るまでもない。そこには絶対にチームメイトがいるはずだから。
 期待通り、そこにはチカちゃんが走り込んできていた。そのチカちゃんにはディフェンダーは誰も
ついていない。
「あっ」
と、私についていたディフェンダーのひとりが声を上げ、チカちゃんにつこうとしたが、その前に
チカちゃんはゴール下に走り込もうとしているミミにパスを……と、いうフェイントを一度かけてから、
ラインギリギリでさりげなく待っていた、スリーポイントシューターのラン先輩にパスを出した。私に
ついていた以外のディフェンダーは、ポイントガードであるカメちゃん先輩と、ゴール下に戻っていた
……というか、わざと目立つように声を上げて走り込んでいたミミについていたため、ラン先輩は
全くのノーマークだった。
 もちろん次の瞬間にはディフェンダーがラン先輩に殺到したが、きっちり狙いを定めてシュートを
打つ時間は、充分に確保されていた。

 先程、N高のゴールに弾かれたボールは、越南のゴールに、音もなく吸い込まれていった。

 

「……じゃ、本日の反省会は以上ということでっ、改めて、かんぱあああいっ!」
 カメちゃん先輩の音頭で、一斉にドリンクバーのグラスやマグカップが打ち合わされる。もちろん
中身はソフトドリンクだが。
 試合後のファミレスの一角を占領したN高女バス部員は、皆笑顔だ。特に、2,3年生は、笑いが
抑えきれないって感じのハイテンション状態が、試合終了時からずっと続いている。
 だって、快勝だもん! 去年なら越南高校と1回戦から当たるっつったら結構怯えなければ
ならなかっただろうが、今年はぶっちゃけ負ける気がしなかった。
 やはりコーチを招聘した効果は大きかったのだ!
 今日は同じ会場で先にN経大付属の試合があったので、中学の同期の友達が我々の試合を見ていて、
「なんかN高、一皮……ううん、それどこじゃない、二皮くらい剥けたよね?」
と、試合後に言ってくれた。誉めてもらったのはもちろん嬉しいけれど、N経大付属みたいな
強豪チームが、わざわざ残って我々の試合を観戦していたってのも何だかウフフだ。

「ああー、今年はベスト8くらいまで行けるといいなあっ!」
 カメちゃん先輩が男らしくマグカップを掲げながら言った。
「そしたら、心残り無く引退して、受験勉強に専念できるのにっ」
 周囲の3年生の先輩方も、カメちゃん先輩の言葉に、だよねー、と頷いた。
 そうだよなあ……総体が終われば先輩たちは引退だ。早いもんだ。去年、ザキ先輩たちを
泣いて見送ったのが、ついこないだみたい。
 私としては、ベスト8はもちろんだが、出来ればもうひとつ勝ちたい。ベスト4まで行けば、
N経大に当たるのだ。このチームで、練習試合ではない公式戦で、N経大とガチンコ勝負がしたい。

「あ、そーだヒミとミミさ」
 先の試合にぼんやり思いをはせていると、向かいに座っているチカちゃんが話しかけてきた。
「忘れないうちに言っとかなきゃ。修学旅行ン時さ、2日目の奈良の自由時間で、部活のお土産買うの
つきあってよー」

 そうか、言われてみれば県総体が終わればすぐに中間テスト、そしてテストの直後に修学旅行なんだ。
なんというタイトなスケジュールだろう。



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