lavender7-9

 白くはじけて―――戻ってきて目を開けると、彼が心配そうに私の顔を見下ろしていた。
「イッた?」
「……だから、アンタはもう……」
 いちいち訊くなと。
 これ以上恥ずかしい問いを重ねられないように、まだ心配そうな顔を引き寄せて、キスをした。

……あ。

 そして気づいた。
 なんだよ、まだパンツ穿いてんじゃん!

 唇が離れた隙に、ボクサーブリーフのゴムをビンと伸ばして、パン、と放して。
「脱がしていい?」
と、すかさず訊く。
 彼は明らかにひるみつつも、あ、どぞ。と答えた。
 膝立ちにさせて、一気にブリーフを引きずり下ろす……と、びょーん、と元気にソレが
飛び出してきた。
 いかにも「待ってました!」って感じで、ちょっと笑える。
 隠そうとした彼の手をわざと乱暴に押しのける。
「見・せ・て!」
「……は、ハイ……」

 うーん。やっぱ大きいよなあ……

 とは言っても、比較対象があるわけじゃないので、全く主観的な感想ではあるんだけど、
この大きさはやはり脅威だ。
 けれど、大きさ以外には……形状や色なんかには、意外にも恐怖は感じないし、キモッ、とかも
思わない。持ち主は、おどおど、というか、おろおろ、というか、びくびくしてるのに、そればっかりが
すんごい偉そうに反り返ってる様は、いっそ微笑ましいくらいだ。色が冬の子供のほっぺたみたいな
キレイなピンク色だし、つるっとした先端にキャラ弁みたいに胡麻とかで目鼻つけたら、
結構可愛いんじゃなかろうか。亀頭とはよく言ったものだなあ。
 つん、と指先でつつくと、ぴくん、と怯えるように震えた。
 えっと、どのくらいの力加減だっけな?
 先月のお山での初遭遇を思い返しながら、そっと握る。
「こんなもんだっけ?」
 ゆっくりと扱きながら見上げた彼の顔は、なんだかとってもしょっぱい表情。気持ちよくないのか?
「痛いの?」
「い、いや……てか、あの、もう勘弁してくんない?」
「ヤです!」
 私ばっか恥ずかしい目に遭わされたままじゃ、不公平だもんっ。
 扱くスピードを上げると、うわわっ、と彼が小さく呻き、それは手の中で一層硬度を増す。
 
 そういえば、さっき、舐めて欲しいようなこと言ってたなあ。やってみるか?

 とはいうものの、実技の知識は皆無に近いわけで。せいぜいがとこ、たまに学校で回ってくる
TLコミック程度なもんだ。ミステリやサスペンス小説中のラブシーンはたびたび目にしてる
わけだが、あーゆーのは、そもそもエッチがメインなわけじゃないから、具体的に技術面が
述べられてるわけじゃないし。
 ちなみに森島有人の―――父の作品には、エッチなシーンはそれほど多くないし、露骨でもない。
割と健全なのだ。意外なことに。

 ま、とりあえず、舐めてみっか。さっき舐められたの気持ち良かったし、あんな感じで
やってみてから、感想を訊いてみればいい。
「えっ!?」
 唇を先っぽに近づけると、彼が驚きの声を上げた。
「ちょ、待て、おま……ええっ、嘘だろ、止めっ……」
 彼の手が頭にかかったが、私の唇と舌がそこに届く方が早かった。ペロ、と先端に舌を踊らせる。

 その瞬間。
 
 ぶわっ、と熱くて苦くて生臭い液体が口元に浴びせかけられた。

 

 口を濯いで顔を洗って部屋に戻ると、彼は全裸のまま「考える人」のようなポーズでベッドに
腰掛けていたが、私を見ると、
「どうぞ」
と、頭を下げながら、麦茶のグラスを差し出した。
「ありがと」
 彼の隣に腰を下ろし、麦茶を呷る。すっかりぬるくなっていたが、まだ口中になんとなく匂いが
残っていたので、大変ありがたい。
 彼はがっくりと頭を落とし、あーあ、ランニングでごまかそうとなんかしないで、一発抜いときゃ
良かった、とかなんとかぶつくさ呟いている。
 ふーん、暴発って、男子にとってはそんなに悔しいことなんだあ。なら一層、さっきのことは
憶えておこう。ふっふっふっ。
「まーいいじゃん、そんなに気にしなくても。引き分けってことで」
「引き分けってなんだよ。エッチは勝負かよ?」
「勝負? ……とまでは思ってないけど。でも何か悔しいし」
 私ばっかりいいように嬲られたんじゃ、悔しいじゃん。
「こんな場面で負けず嫌い発動すんじゃねえよ、この体育会系めっ」
 ゴツ、と側頭部に頭突きされた。結構痛い。
「悔しいだけじゃないよう」
 頭をさすりながら。
「やってみたかったんだもん。渡瀬だってそうじゃないの? 私を、舐めてみたかったんでしょ?」
 すると彼は返事に詰まったようで、ぐっと唇を引き結んだ。

 はしたない、と言われればそれまでだけど、でも、好きな人が感じてくれることが、
とても嬉しいことだと知ってしまったんだから、やらずにはいられない。

 彼が、私の手から空のグラスを奪い取り、トン、と音をさせて些か乱暴に机の上に置いた。
「……わっ」
 そして無言のまま私にのしかかり、ベッドに押し倒した。
「そうだよ」
 耳たぶを軽く噛まれる。
「舐めてみたかったんだよ」
 低い囁き。
「まだまだ色んなコト、やってみてえし」

 ぞくりと、躰の芯が震えた。
 囁きに、溶け合う肌に、先刻の感覚がみるみる蘇る。

 すぐに熱く湿った唇が強く重ねられ、躊躇無く舌が差し入れられる。深いところで舌が絡み合い、
脳に直接水音が響いてくる。
 彼も私も、昂っていた。けれど、先程までより、明らかに余裕がある。ふたりとも一度達して
しまったから、というのもあるだろうが、それだけではなく。
 喘ぎ混じりのキスを交わしながら、お互いの躰のすみずみまでを探り合った。彼は私のぬかるみを
かき回し、私は彼が手の中で硬く脈打つのを感じた。

 もう喘ぎを堪えることはしない。その必要はないから。
 もう、何も隠す必要はないのだ。

「なあ……」
 濡れた溝を指先でゆっくりとなぞりながら、彼が少しだけ唇を離して。
「こればっかしは訊いた方がよさそうだから、訊くけど」
 何だ、改まって?
「指、深いとこまで入れてみていいか? 慣らした方がいいと思うんだよな」
「えーと……」
 指を入れる、慣らす、って……やっぱアソコ、だよな。
「……そうだね」
 確かに、いきなり突っ込まれるより、幾分でも広げておいた方がマシかもな……
 では失礼して、と、もう一度軽くキスしてから、彼はそこにそっと指を……おそらく中指を
突き立て、ゆっくりと差し入れてきた。

……む、きつい?

 指1本だけなのに、なかなか入ってこない。
 あっれー? おっかしーな、タンポンは入るのに? タンポンと指1本じゃ、太さ変わらない
はずだし、潤滑剤は充分すぎるほど充分だろ?
「あのさ」
 彼が心配そうに私の顔をのぞき込み、
「もそっと力抜けない?」
 言われてみれば、脚にガチガチに力が入っていて、間に入った彼の腕をがしっとホールドまで
していた。うーむ、やっぱり緊張してんのかなー、やばいやばい。
 すう、と腹式呼吸を意識して大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐く。彼は息を吐くのに合わせ、
ゆっくりと指を進めてくれた。
 
……うわあっ。

 二の腕と背中に鳥肌が立った。
 ぞわぞわとした、未知の感覚を中に感じたのだ。

「痛くねえ?」
「う、うん、こんくらい大丈夫」
 痛くはないけど、何だ、この感覚? タンポンでは異物感しか感じないのに、何で指一本でこんな
不思議な……まるで躰の内側をくすぐられているような。
「わ……」
 彼の指がもぞもぞと動きだし、その感覚が強くなる。抜き差しというよりは、中を揉みほぐすかの
ような動き。
「感じる?」
 彼はあくまで心配そうに。
「わかんない……どうなんだろ」
 これも快感のうちなのだろうか? 少なくとも不快な感覚ではないけれど。
「どうなんだろって、自分でわかんないの?」
「何か、不思議な感覚なんだもん」
 彼はちらりと指を突っ込んでるソコを見てから、
「すげえ濡れてるんだけど」
 そうなんだ……だとしたら、やっぱりコレも快感なのか。でも、乳首や、前の突起を嬲られる
感じとは違う。
「2本にするぞ」
「ん……」
 見えないのだけれど、おそらく薬指もそこへと潜り込んでいった。2本だと、さすがに多少の
圧迫感がある。
「大丈夫か?」
「ん、平気……んんっ!?」
 平気じゃない! もぞっと2本の指が蠢いて当たった部分から、一段と強いぞくぞくが
立ち上がった。
「痛かったか? ごめんな」
「い、痛くないけど……なんかそこ、ヘン」
「そこって……ここ?」
「あっ……そこ」
 ねらいうちされて、全身にぞぞぞぞっと鳥肌が広がってしまった。
「鳥肌、立っちゃったじゃんっ」
「あ、ホントだ、すげー」
 彼は目を丸くして、空いた方の手で腕をさすってくれながら、
「つまり、ここが感じるトコなんじゃん?」
 前の方の壁の、入り口から5,6センチくらい入ったあたりだろうか。
「ここ、微妙にコリコリした手触りがするんだけど」
「そうなんだ」
 そんなとこ、自分でも触ったことないもんなあ。
 彼は、指だといい具合に届くけど、どーやったらチンコでここ突けるんだろ、とか何とか現実的な
ことを呟きながら、あくまでゆっくりと、そうっと指を動かす。
 最初に当たった時ほどのぞくっと感は治まったけれど、でもやはりそこからは不思議な快感が
じわじわと立ち上ってくる。不思議な……そう、直接、脳に響いてくるような。決して強い刺激では
ないのに、躰が火照り、段々息が上がってくる。自然と喘ぎも漏れてしまう。
「しっかし、上手く出来てんよな」
 彼は指の動きを続けながら、妙に感慨深げに。
「いくら子孫繁栄のためだっつったって、ここまで気持ちよさそーな造りにしなくても
いいだろうになぁ」
 気持ちよさそー、って……私の中がか?
「どんな感じなの?」
「自分で知らないの?」
「だってそんな奥までじっくり触ったことないもん」
 さすがに興味本位でそこまで指突っ込んでみる勇気は持ってないし、お風呂でだって、シャワーで
流しながら、くちゅくちゅっと素早く洗うだけだもんなあ。
 へえ、女子ってそんなもんなんだ、と、彼は不思議そうな顔をしてから、
「どんなかっていうと……ええと、まずあったかくって、狭い上に締め付けてきて、でも柔らかくって。
んで、ふかふかしてるとこもあれば、ザラザラしてたり、ひだひだしてるとこもあったり」
「へー……」
「しかもそれが、ぬるぬるぞわぞわ動くんだぜ? 気持ちよくないわけない」
 指がイキソー、と彼は笑った。
「入れたら、気持ちよさそう?」
「うんっ」
 彼は今度はふかーく頷いて。
「絶対気持ちいい」

「そんなら、入れていいよ」

 彼は、指の動きを止めて私の顔を見つめた。
「もう、いいよ、入れて」
 もう一度そう言うと、彼はふうっ、と息を吐き、
「うん、ありがとう」
と、真剣な顔で言った。




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