残り香 前編



「入れたくなっちゃったな」

 晃は美誉子の耳たぶを舌先で舐りながら囁いた。

「無理……車壊れちゃう」

 喘ぎ混じりに答える美誉子の左脚は、車のダッシュボードの上に狭そうに乗っている。

「兄貴の車、借りてくりゃよかった。パジェロだったら余裕なのに」

 晃は運転席に膝をつき、リクライニングした助手席に横たわる美誉子に覆い被さっているが、

狭い車内でバランスをとるのは苦しい。後部座席の縁についた左手1本で、上半身を支えている状態。

 右手は美誉子のストイックなデザインのブラウンのスカートの中に深く潜り込んでいる。

「それはそれでヤバイよ、悟さんの車、汚したりしたら……んっ」

 割れ目をゆるゆると撫で回していた晃の右手の中指が、美誉子の中にくにゅ、と入り込んだ。

「あ……」

 美誉子の左足がフロントガラスを蹴り、ジムニーはそれだけでぐらりと揺れた。

「あんな泥だらけの車、少々汚したってわかるもんか。どうせ俺ばっかり洗ってるんだし」

 悟は山男なので車は年中泥だらけで、借りるたびに晃が洗車している。

「そうかもしれないけど……でも、やっぱり人の車でえっちなんて、落ち着かないってか……ああんっ」

 晃の指が、美誉子のポイントを捕らえ、指先をめり込ませた。

 その拍子に、ペニスを握りしめている美誉子の右手にもぐっと力が入り、晃は一瞬息を飲んだが、

「へえ、俺か美誉子の車なら落ち着くわけ?このロケーションでも?」

 敢えて冷静を装い、からかうように囁いた。

「このスリルが好きなのかな?いつ誰に見られるかもしれないっていう?」

 晃のジムニーは、2つの大きな倉庫の隙間に停められている。佐渡行きの最終フェリーを待つ間、

人気のない場所を求めて新潟港の外れまで来てしまった。昼間であれば、貨物船の荷揚げや荷下ろしで

それなりににぎわう場所なのであろうが、日曜の夜8時ともなると、巨大なコンテナ用クレーンは

眠る恐竜のように高々と静まりかえり、人気も皆無。

 それでも、車を覗き込まれればむつみ合う姿が丸見えであるというスリルは、ふたりを緊張させ、

そして興奮させている。

 晃はわざと音を立てるように美誉子の中をかき回した。水音が押さえた喘ぎを圧するように、

狭い車内に響く。

「や……んっ」

 美誉子も、それに対抗するように、ペニスを握りしめている手を上下に動かした。

「そんなことしたら、マジで我慢できなくなっちゃうだろ」

 晃は更に、ボタンを半ばまで外したブラウスの下に覗いている、ピンク色の乳首を吸った。

「晃ってば、昨夜だって、あんなにしたのに……」

 美誉子が最終のジェットフォイルで新潟にやってきたのは昨日、土曜の夕方だった。

 晃がまたからかい口調で囁いた。

「えー、あんなにって、俺、結局2回しか出してないよ。美誉子は何回もイッてたみたいだけどさ」

   

 土曜の最後のジェットフォイルで新潟にやってきた美誉子を、晃はかっさらうように車に乗せると、

コンビニに寄っただけで郊外のラブホテルに連れ込んだ。美誉子が在学中だった頃から何度か使った

ホテルだったけれど、その頃よりは少しだけ室料の高い部屋に入った。と言っても、インテリアが少々

しゃれたデザインになり、ベッドが広くなっただけで、豪華な気分になれるような部屋ではない。

「お腹空いてるんだけどな……」

 控えめに欲求を主張する美誉子に構わず、晃は、

「俺だって空いてるけどさ」

 そう言いながら部屋に入った途端に美誉子をかき抱き、口紅を落としてさえいない唇にかぶりついた。

「もう……」

 美誉子は一応抗議の声を上げたが、すぐに唇と舌を絡め合うことに没頭した。

 晃の左手は美誉子の着ているタンクトップを捲り上げ、ストラップレスのブラジャーごと、乳房を掌で

包み込んだ。

「んっ……」

 晃の指先がブラジャーの隙間から入り込み、美誉子の乳首に触れた。それだけで美誉子の喉の奥からは、

うめき声が漏れた。

 細い背中を這い回っていた右手は、その呻きに促されたかのように、控えめなフレアーが入った

スカートをじわじわと背後から捲り上げていく。火照った手がショーツごと尻をわしづかみにした時、

やっと美誉子は晃の唇から逃れ、

「あん、もう……シャワーだけは浴びさせて。潮でべたべたなんだから」

 掠れた声で言った。

「ん、わかったよ」

 晃はそう答えたけれど、せつなげに潤んだ漆黒の瞳と、唾液で濡れ、ルージュを滲ませた唇から

一瞬でも離れたくなくて。

「ただし、一緒じゃないと嫌だからね」

 先にバスルームに入った晃は、掌にたっぷりとボディシャンプーを泡立てて美誉子を待っていた。

美誉子が入ってくると、すぐに弱めのシャワーの下に立たせ、背後から抱きしめるようにして全身に

掌を滑らせはじめた。

「やん……くすぐったい。自分で洗うから」

 美誉子は泡にまみれた躰をくねらせたが、もちろん晃は離さない。

「遠慮しないの、キレイにしてあげるから」

 楽しげに、火照った耳たぶに囁く。

 晃の手は、首筋から脇腹を通り太腿へと丹念に曲線をなぞるように下がり、また背筋を這い上る。

「あ……も……駄目ってばぁ」

 美誉子の声はみるみる水気を帯びてくる。

 晃の手は、知り尽くした躰の性感帯をくまなく探る。しかし、乳首や、脚の間には触れない。

「どうしたの?そんなにもじもじして」

 晃はそう囁きながら、ぎゅっとこすりつけ合う太腿の間に手を入れた。

「んっ……」

 美誉子はぴくりと躰を震わせたが、晃の手は、割れ目のへりをすっとなぞっただけで、太腿の前面に

戻ってしまった。

「意地悪ぅ……」

「どこが意地悪だよ。洗ってあげてるのに?」

 晃は笑う。

「だって……こんなに焦らして……」

「へえ、焦れてるんだ。じゃあ、美誉子は俺にどうして欲しいの?」

「どうしてって……あんっ」

 晃の指先が乳首をかすめた。

「もっと……」

 喘ぎが美誉子の言葉を途切れさせる。

「もっと、なあに?」

 両掌が、こねるように平らな腹を撫で回す。

「もっと……ちゃんと感じさせて……」

 美誉子は細い喉をのけぞらせて言った。

「相変わらずエロいな、美誉子は」

 晃はそう言いながら、美誉子の耳の後ろに唇をつけ。

「キレイになったらたくさん感じさせてあげるからね。大事なところも洗うよ」

 乳首と、脚の間に同時に触れた。

「あんっ……」

 それだけで崩れそうになった美誉子の腰を、晃はぐっと支え。

「駄目じゃん、キレイにするんだろ?感じさせて欲しいんだろ?」

 乳首を人差し指と中指で挟んで転がしつつ、脚の間では襞の一枚一枚を探るように指を滑らす。

 美誉子は耐えきれず、バスルームの壁に片手をついて、躰を支えた。

「中もキレイにしようね」

「きゃ……」

 晃の中指はボディシャンプーの助けを借り、美誉子の中にするりと入り、ゆっくりとかきまわす。

「あっ……」

 美誉子の膝がふるふると震え始めた。その高まりの合図を認めた晃は、指をそこから抜いた。

「続きは部屋でね」

 晃の囁きに、美誉子は喘ぎつつも頷いた。

  

 残された短い時間を……出航までの時間を、ふたりだけで寄り添いあって過ごすつもりだった。静かに

過ごせる場所を探していたはずなのに、どうしてこんなことしてるんだろう。

 頭の隅でそんなことを考えつつも、深く差し込まれた晃の舌を、美誉子の舌はどん欲に受け止める。

 絡み合って溶けてしまえばいい。

 つながってしまえばいい。

 それともいっそ、この熱く蠢く舌を、噛み切ってしまおうか―――

 そうすれば、帰らなくて済む。

 突然、海が荒れだせばいい。

 船が故障してしまえばいい。

 そうすれば、もう一晩、この人と一緒にいられる。

 愛してる。

 その思いだけで頭も躰もいっぱいにして、この人だけを見つめて、この人の温もりだけを感じて、

この人の声だけを聞いて―――

 でも。

 明日になれば、別れはもっとつらくなる。

 わかってる。佐渡行きは、私自身が決めたこと。

 泣いちゃ駄目。

 泣いたら彼を心配させてしまう。

 泣くのはひとり、冷たい部屋に帰ってからでもできる。

 今は彼に、次に会える時まで覚えていて欲しい私を―――元気で、えっちで、強くて、そして彼を

愛している―――そんな私だけを見せていなければ。

   

 晃は、美誉子にバスタオル1枚だけを巻き付けてやり、先にバスルームから出した。散々弄り回され、

けれど絶頂を与えなかった躰は、触れれば崩れてしまいそうなほどに熱く融けていた。

 続いてすぐにバスルームを出た晃は、ソファに腰掛け、両手で顔を隠し、呼吸を整える美誉子の

肩を抱き、

「今日はね、シャンプーよりもっとイイモノがあるんだ」

と、囁いた。

「……イイモノ?」

 美誉は不安と期待の入り交じった眼差しで、手の隙間から晃を見上げた。

 晃はソファの脚元に投げ出していたディパックから、ドラッグストアの黄色いビニール袋を取り出し、

その中から小さな瓶を取り出して美誉子の手に載せた。

「……化粧水?」

 瓶に入っているのは透明な液体。大きさといい、液体の感じといい、瓶の作りのチープさといい、

ブランドものではない安物の化粧水そのもの。

 美誉子がラベルを読もうとすると、晃がさっと瓶を取り上げ、ぱりっと音をさせて、封をしてあった

ビニールごと蓋を開けた。

「何なの?」

「何でしょう?」

 瓶を逆さにすると晃の掌に、透明な見かけからは意外なほどの、とろりと粘度の高い液体が落ちてきた。

 そのどこかで見たような粘り気に、

「あ、もしかして……」

 美誉子はそれが何かやっと理解したようで、困ったように唇をすぼめた。

「美誉さんはすぐに濡れちゃうから、いらないんだけどね」

 晃は両掌にそれを伸ばしながら、とまどいの表情を浮かべる美誉子に微笑みかけ、

「でも、こんなことしたら気持ちいいんじゃないかなって、思ってさ」

 バスタオルを剥ぐと、両掌で乳房を包み込んだ。

「や……」

 ひんやりとしたその感触に、美誉子はぷるっと躰を震わせたが、火照った乳房と、それ撫で回す掌の間で、

液体はすぐに体温に同化した。触れる前から立ち上がっていた乳首にも、ぬるぬるとした液体が

塗りたくられた。

「あっ……」

 美誉子は喘ぎを飲み込んだ。

 舐められているのとも違う、乾いた指先で撫で回されているのとも違う、そのぬるぬるとした感触は、

いつもと違う熱さを美誉子にもたらしていた。

「気持ちいい?」

 晃は美誉子の耳に甘い声で問いを吹き込んだ。

 美誉子はそれに答えずにうつむいた。しかしうつむくと、ぬめぬめと光り、晃の手に揉みしだかれている

自分の乳房が目に入る。その卑猥さを恥じらうように、美誉子は目を閉じた。

 そして目を閉じたことによって気づいたか、くん、と鼻をひくつかせ。

「……オレンジ?」

 そう訊きながら目を開け、晃の顔を見上げた。

「あたり」

 唇を触れ合わせながら晃が答えた。

 体温で温められた液体からは、ほのかにオレンジの香りが立ち上っていた。

「なかなか美味しそうな香りだね」

 そう言いながら乳房に顔を近づけた晃は、ちろり、と立ち上がり敏感になっている乳首を舌先で舐めた。

「これ、舐めても大丈夫なんだって。だから、こっちにも塗ってみようね」

「だからって……」

 晃は液体を指先に取ると、美誉子の脚の間に手を入れ、割れ目にそれを塗り込んだ。

「やだ……冷たい」

 美誉子は思わず脚を閉じた。

「すぐ温まるよ。美誉子、すごく熱くなってるもん」

 器用な指先は、くちゅくちゅと音をさせて、美誉子の分泌しているものと、その液体を混ぜ合わせる

ようにかき混ぜた。そしてその指先は、次第に敏感な突起に狙いを定めていく。

 触れられたその瞬間からのぬめりは、美誉子の感覚を急速に高ぶらせたようで、じりじりと腰を

引いていき、ソファの角に、大きく脚を開き追いつめられたような体勢になってしまった。

 晃はするりとソファを下り、カーペットの敷かれた床に跪くと、美誉子の脚の間に顔を寄せた。

「……いい匂い」

「やだっ……」

 美誉子は脚を閉じようとしたが、それは晃が許さない。むしろ、白い太腿をさらに大きく押し開いた。

「美誉子の匂いが混じって、ローションそのものよりいい匂いになってるよ。微妙にスパイシーで

美味しそう。そそっちゃう」

 そう言って、晃は濡れて光る襞に唇をつけた。

「やだ……そんなこと言わない……んっ」

 そこよりも更に熱い舌が水音を立てながら上下に往復する。

「あっ……駄目っ……」

「香りのせいか、いつもより甘い気がする」

 そう言いながら、晃は美誉子の中に中指をゆっくりと差し入れた。

「そんなこと……」

「食べたくなっちゃったな」

 晃は割れ目を指で押し開き、充血した突起を露わにし、軽く歯を当てた。

「あんっ……噛んじゃヤダっ」

 前歯と舌先で軽く挟み込んだだけだったが、美誉子は膝を閉じようとした。と言っても、晃の頭を

挟み込み、より引き寄せてしまっただけだったが。

「ごめんごめん」

 晃は楽しげにそう言うと、中を指でかき回しながら、突起を舌先で舐め上げた。

「んんっ……」

 がくん、と美誉子の首がのけぞる。

 絶頂が近いのを、美誉子も、そして晃も知っていた。

 ぴくぴくと蠢くそこに、晃は無理矢理人差し指も押し込んだ。指2本で、腹側の壁を何度も

強くこすり上げる。

「あ……そこ駄目……晃っ……」

 半泣きの、目元を赤く染めた、たまらなく嗜虐性をそそる表情を観察しながら、晃は指と舌の

刺激を一層強く、速くした。

「や……あんっ、いっちゃう……もぉ……」

 ガクガクと腰が震え、晃の指を肉の襞が強く締め付け、そこからじわりと、ローションよりもいくらか

粘度の少ない液体が溢れた。


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