私の王子様1

  4月××日

  Dear麻里亜ちゃん。

 あなたへの日記を書くのはとっても久しぶり。2年ぶりくらいになるのね。
 その2年の間に、私は大学生になったのよ。
 受験と、その後の大学生活の慌ただしさで、すっかりご無沙汰になってしまって
ごめんなさい。
 でもあなたは、いつも私のそばにいてくれるものね。この2年の間に私に何があったか、
すっかり知っているでしょう?
 でもあなたのことを忘れたことはないのよ。その証拠に、大学の寮にこの古いパソコンを
ちゃんと持ってきたわ。
 それに、今日からはまた、頻繁にこのファイルを開いて、あなたに宛てて日記を
書くことになると思う。

 何故って……それは、あなたにしか話せないことができたから!

 麻里亜ちゃん。
 私があなたに宛てて日記を書き始めてから、私の王子様について何度も書いたわね。
覚えてる? 覚えてるわよね?
 子どもっぽいとは自分でも思うのだけれど、私は、いつか私だけの理想の王子様が、
私を迎えに来てくれると信じてきた。

 そしてとうとう今日、王子様に巡り会えたみたいなの!

 今日は、2年生になって初めての、農学部校舎での講義の日だったの。2年生になると、
週3日も農学部に通わなければならないのよ。ちょっと大変なのは確かだけれど、いよいよ
農学部の学生になったんだって実感がして、悪い気はしないわ。

 その農学部校舎初日の2コマ目が醸造学だったのだけれど、私はそこで、運命の出会いを
してしまったみたいなの!

 講義開始のチャイムが鳴って、まず教授が講義室に入ってきたの。島谷教授は
一年の頃から教わっているから見知っているのだけれど、その後について入って来た
男性がいて、その人は初めて見る顔だったわ。教授に頼まれたのでしょう、彼は映写機を
載せた台車を押してきていた。古い校舎の方の講義室だったから、ビデオプロジェクタの
設備が無いのね。
 教授の手伝いをしているのだから、おそらく醸造学講座の助手か、年齢から言ったら
院生かオーバードクターの研究生かしらとちらりと考えて……考えたのだけれど。

 その人の顔を見た途端、彼が何者であるかなんて、全然どうでもよくなってしまった。

 まるで雷に撃たれたように……陳腐な表現だけれど、本当にそのくらいの衝撃だったわ。
 だってものすごく格好良くって……ううん、格好良いってだけじゃないの。
すごく綺麗な人だったから。
 まず惹きつけられたのが、キラキラした栗色の大きな瞳。単純に栗色じゃないのよ。
金色がかった感じの、琥珀色とでも言うのかしら。
 それから瞳と同じ色の、髪もすごく素敵なの。少々長髪気味で、首筋にかかるくらいの
長さなのだけれど、私自身の乾燥してぱさついた髪が恥ずかしくなるくらい、
彼の髪はつややかだった。
 肌の色も白くて―――だから多分、ハーフなんだろうと思う。顔の作りも幾らか
堀りが深くて、手足も長いし。
 でも、いかにもガイジンって感じではなくて、何ていうのかしら、基礎部分は日本人
なんだけれど、そこに良い具合に西洋的なエッセンスが加えられてるって感じかしら?
 顔だけを見るとほっそりしてて色白だし、女顔なのだけれど、背も高いし―――
多分180pくらいある―――結構筋肉質で細マッチョ系だから、妙な女っぽさとかは
無いんだけど……

 ああ駄目駄目!
 いくら言葉を並べても、彼の美しさを上手く伝えられる気がしない―――あ、そうか、
格好良いとか、綺麗、っていうだけじゃないのよ、そうよ彼は「美しい」人なんだわ!
 あんなに美しい男性を見たのは本当に初めてで、男の人にあんなに見とれてしまったのも
もちろん初めてで……

 だからね、麻里亜ちゃん、私、思ったの。
 
 彼こそが、私の王子様なんじゃないだろうかって!
 幼い頃からずっと夢見ていた理想の王子様が、とうとう現れたんじゃないかって!!

 私って二十歳になる今まで、恋愛らしい恋愛、したことがないじゃない? 
中高生の頃は、友達に合わせて「誰誰くんがカッコイイと思う」なんて、一応言ってみたり、
Wデートにつきあったりしたこともあったけれど、本気で男子にときめいたことは無かった。

 でもきっと、今回は本物。本物の恋だわ。
 だって、今までの恋の真似ごととは全然ちがうときめきを感じたし、彼を見つめている
うちに、胸がどきどきしてきて、顔が熱くなって、足が震えてきてしまったのよ!

 もちろん、そんな素敵な人だから、私以外の女子たちもみんなざわめいたり、
見とれたりしていたわ。ううん、女子だけじゃなかったかも。男子でも感心したように
彼を見つめている人もいたみたい。

 でも、私ほどのときめきを感じた人は、いなかったはず!

 だって、彼も機械をセットしながら、何かを気に掛けるように、私の方をちらりと
見たんですもの! 確かに一瞬目が合ったのよ!!
 彼も私に、他の子とは違う何かを感じてくれたのかもしれないわ。

 そうそう、彼の名前は、早乙女晃っていうの。
 サオトメってところまでは、講義の準備を終えて部屋を出ようとした彼に、教授が
呼びかけたからすぐに分かった。それを手がかりに講義の後、ネットで大学のサイトを見て
フルネームを調べたの。醸造学講座の助手なんですって。

 早乙女晃。

 彼に相応しい、美しい響きの名前だと思わない!?



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