Slapstick New Year's day最終回


#PM8:00 美誉子


 日中は取引先関係のお客さんが多いのだが、暗くなってくると、うちの職人さんたちを始め、近所の

人たちが集まってくる。宴会はそこからが本番。空いた一升瓶とビール瓶が廊下にごろごろし、嫁入り前の

娘に聞かせていいのか、っていう話題がぽんぽん出てくる。

 私自身も散々酒の肴にされるし。やれやれだ。

 なぜか毎年元旦の夜には、うちで町内会状態になってしまう。もう夜の8時を回ったが、座敷にはまだ

10数人ほどのオジサンたちが、すっかり根っこを生やして盛り上がっている。

「あけましておめでとうございまーす」

 テンションの高い挨拶が玄関から聞こえてきたので出ていくと、高橋と高橋のお父さん。

「あ、高橋のおじさん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

「こちらこそぉ。お、美誉ちゃん、着物可愛いねえ」

「馬子にも衣装ってヤツだな」

 せっかく高橋父は褒めてくれたのに、息子はドサリとお年始代わりであろう野菜の箱を玄関先に

置きながら、すかさずツッコミを入れた。

「毎年同じイヤミ言ってるんじゃないわよ。進歩がないんだから」

「そうだぞ、お前、失礼だなあ……あ。忘れてた」

 と、すでに結構お酒の入ってるらしい高橋父は高橋息子の後頭部を一発ペンと殴ってから、後ろを

向いて手招きした。

「おい、拓くん、あんたも挨拶して」

 玄関の暗がりから初対面の男性……というか男の子が頭を下げながら出てきた。

 高橋父がその子の頭を叩きながら紹介する。

「来冬から蔵に入れてもらう、吉川拓です。この3月に農業高校出て、親父の田圃継いで、冬はこちらで

手伝わせてもらうっつー話になってます」

「ああ、はい、伺ってます」

 高橋のお父さんの紹介で、来年から若い人が入るらしいという話は私も小耳に挟んでいた。

「ほら、挨拶しろ。こちらのお嬢さんだ」

「吉川拓です。よろしくお願いします」

 吉川拓くんは、ぺこっと頭を下げた。痩せた体に丸顔で、しかもスポーツ刈りの上、制服らしき紺の

ブレザーを着ているので、いかにもまだ現役高校生って感じ。可愛い。

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。さ、どうぞ、上がって下さい、皆さん座敷で大盛り上がりですから」

 3人を座敷に通して台所に行くと、母がお燗をつけていた。義姉は子供達を寝かしつけるために、

すでに奥へ引っ込んでしまったので……義姉自身も相当疲れてしまったようだったし……大忙しだ。

昼間には親戚の女性たちが入れ替わり立ち替わり手伝いに来てくれていたのだが、みんな自分の家のことも

あるわけなので、もう帰ってしまった。

 裏口の外の天然冷蔵庫(要するに屋外ということだが)からビールを3本と、吉川くんのための

ウーロン茶のペットボトルを取る。外はいつの間にか吹雪になっていて、ウーロン茶は凍りだしていた。

 お燗が出来るのを待ってから座敷に戻ると、高橋父子はすでに宴会の輪に入りまくりの馴染みまくりで、

吉川くんだけ困ったように座敷の隅っこに座っていた。

 お銚子とビールを酔っぱらいどもに配ってから、吉川くんの隣に座る。

「ウーロン茶にしときましょうね」

「はい……すみません」

 吉川くんはやたらぺこぺこする。緊張してるんだろうなあ。

 グラスを持たせ、シャーベット混じりのウーロン茶を注ぐ。私も自分のグラスにビールを注いでもらう。

「じゃあ、来冬からよろしくお願いしますってことで、乾杯しましょう」

 二人で静かに乾杯する。

「吉川くんは、どうして蔵に入ろうと思ったんです?若いのに珍しいですね」

 農家の跡取りでも今時の若い人は、冬の間はスキー場などのアルバイトをすることが多い。

「あの……俺んち、酒米も作ってて……どういう風に使われてるか知りたくなって…高橋さんがうちの

親父の友達で、遊びに来られたときにそういうこと話したらこちらを紹介されたんです。こちらなら

昔ながらの酒造りを教えてもらえるって」

「若いのに熱心なんですね。自分の作ったお米の行く末を見届けたいなんて」

「米作るの好きなんで……それだけっス」

 高橋と気が合いそうだ。

 と、吉川くんがおずおすと。

「すみません……あの、お嬢さんは……」

「やあだ、お嬢さんなんて、やめてください。ここでは誰も風に呼びませんよぉ。美誉ちゃんです、みんな」

「あ……えと、じゃ」吉川くんはめいっぱい躊躇してから「み、美誉さんは……蔵を手伝って

らっしゃるんですか?」

「バイト程度に事務をちょっとね。本業の合間にだけど」

 初々しくて可愛いなあ、ホントに。

「他にお仕事してるんですか?」

「ええ、一応教員なのね。今は、一小の学童保育で働いてるの」

「わあ、先生なんですか」

「拓ぅ」

 そこへ酔っぱらい高橋父がにこにこしながら乱入してきた。

「ダメだぞ、美誉ちゃんは。もう政略結婚の相手がしっかり決まってるんだ」

 ビールを吹きそうになった。

「な、何よそれ、おじさん、政略結婚って」

「美誉ちゃん、乙女酒造の三男坊とは、相変わらずらぶらぶーなんだろ?」

 ああもう、朝から何回これを言われたことか。何だか今年はこの類のツッコミが多いんだよなあ。

 いいかげんうんざりして答える。

「……ええまあ、お陰様で」

「そうか、良かった良かった。な、拓、そういうわけだ。諦めろ。なんてったって、乙女酒造の跡取りだ、

おまけに、N大農学部の大学院に行ってる超美形のインテリだ。お前の張り合える相手じゃねえ」

「ぼ、僕は何も……」

 可哀想に吉川くん、真っ赤になってうろたえている。

 そこに兄貴がツッコミを入れた。

「高橋さん、美誉が自分で拾ってきた縁だから、政略結婚じゃないんスよ……って、知ってるでしょうに、

高橋さんだってー」

 兄のツッコミは座の爆笑を買った。

「まあねえ……で、いつなんだ?」

 高橋父は、今度は苦笑していたウチの父に訊いた。

「何が?」

 父は赤い顔できょとんとした。

「だーかーら、いつ結婚すんだって訊いてんの。ゴールインは近いって言うでないか」

 ぶっ。どこからそんな話がっ。

「そんな話は全然……」

 父はそう言いながら怪訝そうに私を見たので、思いっきり首を振って否定する。

「えー?だって、おい、広毅、お前、婚約したとかって言ってねかったか?」

 高橋父に突然問いかけられた高橋息子は、ローストビーフを慌てて飲み込んでから。

「したとは言ってないって。ただ、晃がクリスマスに指輪渡してたみたいだから……」

 その答えに、オヤジどもがざわつく。

……またいい加減な噂の出所はコイツか。

 私の目つきに気づいたか、高橋息子は首をすくめた。

 と。

 また玄関の戸が開く気配がして。

「ごめんくださーい、こんばんはー」

 と男性の声が。

 げっ。

 もしや、この声は。

 慌てて立ち上がろうとしたが、動揺の余り着物の裾を踏んづけてよろめいているうちに、

台所にいたらしい母が「はーい」と小走りに出ていってしまった。

 あっちゃー……

「あーらー」

 母の驚いた声が聞こえてくる。

「まー、悟くん、久しぶりねえ、3兄弟揃ってなんて珍しい、吹雪の中ようこそー。あけまして

おめでとうございます。晃くんも、また来てくれたのねー」

 うあああ……なんというタイミングだ……



芽衣ちゃん 晃さん


美誉です……

(略)……と言うわけで、あまりにも素晴らしいタイミングで晃さんとお兄さんたちがお越しになった

ものですから、その後もオヤジ共のテンションは天井知らずで上がり続けたのでありました。

そして、その盛り上がりまくったオヤジ共の前で、晃さんがだめ押しのように言ってのけた台詞が

またスゴかった。

それを聞いたヨッパライたちが、一瞬シンとしてしまうくらいスゴかったのです。

あのシチュエーションで、涼しげに微笑みつつあんなことが言えるなんてシンジラレナイ……(今始まった

話じゃないけどさ)

具体的な台詞は、思い出すとその瞬間の恥ずかしさが蘇り、悶絶してしまうので書けません(倒)


(気をとりなおして)

ところで、芽衣ちゃん、その後小此木さんとは会いましたか?

無事にプレゼント渡せましたか?

ってか、きっちり埋め合わせしてもらった〜〜!?


ご報告お待ちしております〜♪




To美誉ちゃん 晃くん


芽衣ですっ。

晃くん、何言ったの?

悶絶するほど恥ずかしいことって、なになになに!?

美誉ちゃんが書けないなら、晃くんご本人からぜひ伺いたい!

激しくキボン!!


それにやっぱり

>それからイヴは、パーティだけじゃなかったじゃない。

>その後もあったでしょ?


だったんだねえ〜〜

うんうん、そりゃ君たちがホームパーティーだけでクリスマスを済ませるはずは無いと思っていたよ。

むふふふ。


いやーそれにしても、老舗のお正月って大変なんだねえ。

晃くんのお宅も同じようなものなのかな?

普通のサラリーマン家庭の娘で良かったなあ、としみじみ思いました。


>ご報告お待ちしております〜♪

はーい。その後、小此木くんにはしっっっかり埋め合わせしてもらいましたー。

晃くんのアドバイス通り、しゃーないから、こちらから電話してみましたよ。

そしたら、やっぱり小此木くんってば、すげーびびってたみたいで、謝りまくってました。

あたしって、そんなに怖いかなあ?

とにかくお詫びがしたいと言うので、元旦スノボに連れてってもらいました。

いやー小此木くんってば、見かけによらず(?)すっごいスノボ巧いのっ。びっくりしたよ。

クリスマスプレゼントもやっと渡せました。

私はネーム入りの名刺入れを上げました。安物を使っているのを知っていたので。

彼がくれたのはDVDでした。ふたりで一緒にボランティアをしたときの……美誉ちゃんと晃くんが

聴きにきた年の、S記念音楽祭のオペラのDVDでした。


このプレゼントに込められた意味って、あの夏の一緒に仕事した思い出を、彼も大切に思ってくれて

いると、そう解釈していいのかな?

なんちゃって、今もBGM代わりにエンドレスでかけながらひとりでニマニマしてるんですけど

……ベルリオーズ聴きながらニマニマしてるのって、かなり不気味かも。


どう思います?




To:芽衣さん 美誉さん

From:晃


>このプレゼントに込められた意味って、あの夏の一緒に仕事した思い出を、彼も大切に思ってくれて

いると、そう解釈していいのかな?


芽衣さんの解釈通りでいいと、俺は思いますよ。

君と一緒に過ごしたあの夏の記憶は、僕にとって宝物です、そう言いたいのだと思います。

俺だったら、そう書いたカードでもつけちゃうところだけど、小此木さんシャイですからねー、

汲み取ってあげて下さい。

それにしても小此木さん、プレゼントのセンスがいいですね。一生懸命考えたんだろうなあ。


しっかし、悪事(じゃないんだけど)千里を走るとは良く言ったものだと、元旦の夜には

痛感しました。

昼間から、今年は年始客がやたら結婚結婚って言うのはなんでだろう?と不思議に思ってたのですが、

きっちりデマの出所があったわけですね。

美誉さんにクリスマスプレゼントに指輪を上げただけだったのですが、それに尾ひれがついて婚約したとか

するとかいう話になり、わずか1週間で地元業界中に広まっていたという……恐ろしいことです。


元旦の夜、タイミングを計ったように曽根家に現れてしまいましたが、計って行ったわけではありません。

夜になってお客さんが一段落して、美誉さんにお土産を持たせなかったことを母が朝からずっと気にして

たし、次兄も帰省してることだし、3人で曽根酒造さんに酒の肴でも持って挨拶に行くかー、まだあっちは

宴会してるだろうしー、という話になっただけなのです。


しかし、そんなに悶絶しちゃうほど恥ずかしかった?>美誉さん

俺的にはいたって真面目に答えただけだったんだけどなあ。

それに、美誉さんがいいかげんキレそうだったじゃない。

あそこらでまとめておかないと、

「もーっ、うるさいわねっ、ほっといてよ、きーっ!」

とか怒りだしそうだったからさ(そうでもなかった?)


>美誉ちゃんが書けないなら、晃くんご本人からぜひ伺いたい!

了解しました。↓こう言っただけです。

皆さんのご期待はとても光栄ですが、僕が、美誉さんに相応しい一人前の男になるまで、

いましばらく静かに見守っていて下さい。


ね、ちっとも恥ずかしくないでしょ?
                                          FIN.





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※オチがマンネリで申し訳ありませんm(__;)m次長編への含みをもたせようとしたら、マンネリから
 逃れられませんでした。もうしませんから許して・゚・(ノД`;)・゚・
 ところで、今年一年も読者の皆様には大変お世話になりました。たくさんの応援を受けて、今年も
 無事サイトを続けてくることができました。
 来年も頑張りますので、どうぞよろしくお願い致しますm(__)m
 そして、皆様にとりまして、来年がより良い年になりますように(-人-)        2006/12/28どり




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