染まり初め1


「窓、開けていいですか?」
 長風呂から戻った桜は、カーテンに手をかけながら、火照った頬で訊いた。
「いいよ」
 カーテンが引かれる音がして、
「わぁ」
 カラカラと窓を開けながら、桜が歓声を上げた。
 歓声と共に、川の音。
「先生、見て、すごいキレーイ」
「何?」
 俺は、布団に転がってテレビのニュース番組を見ていたのだが……目も耳も素通り状態で……テレビを
消して窓辺に行き、桜の頭越しに外の景色を眺めた。
「おっ」
 客室の渓流に面した窓からは、ライトアップされた渓流と紅葉の始まった木々が見えた。食事処での
夕食に行く前にカーテンを閉めてしまったから、ライトアップされていることに今まで気付かなかった。
「いい感じだな」
「綺麗ですねえ」
 桜は俺の顔を見上げて、嬉しそうに微笑む。
 モミジやブナはまだちらほらと色づいているだけだが、漆はすっかり真っ赤だし、ブナの幹に絡みつく
蔦の葉も、随分赤い。それらの赤と黄色と緑のコントラストが、渓流の流れと共に、間接照明に
浮かび上がっている。
「紅葉の温泉なんて、最高」
 うっとりと桜が言う。

 コンクールが終わったら旅行に行こう、と言ったはずなのに、実現できたのは10月も半ばになってから
だった。日程に余裕がない上、仕事の都合もあり、行き先も東京よりは地元N岡に近い水上の温泉宿と、
なんのひねりもないプランになってしまったのだが、それでも桜は文句一つ言わず、嬉しそうに
やってきた。待ち合わせた上毛高原駅では、俺を見つけるなり、ボールを追いかける子犬のような勢いで
駆け寄ってきた。

 白い浴衣姿の桜は、満足げに窓の手すりに寄りかかり、川風に、火照った頬を冷ましている。
「遅くなった分、紅葉が見れたから、勘弁してくれるか?」
 桜は驚いたように俺を振り仰ぎ、
「勘弁って、元々怒ってませんよ?」
 そう言って笑い、また窓の外に視線を戻した。
「そっか、よかった」
 小さな体にゆっくりと腕を回し、背後から覆い被さるように抱きしめた。
 ぷるり、と抱きすくめた躰が震えた。
 うつむいた首筋が赤い。
 さらりとした髪に顔を押しつけると、フルーティーなシャンプーの匂いがした。甘酸っぱい香りは、
桜に良く似合う。
 うつむいた顔を覗き込むと、ぎゅっと目をつぶって、必死で何かをこらえるような、
そんな表情をしていた。
 そっと火照った頬に触れて仰向かせた。
 目はぎゅっとつぶったまま、それでも柔らかい頬は逆らうことはない。
 火照って赤い唇に、自分の唇をゆっくりと下ろす。
 熱い。
 堅く引き結んだ唇を舌でなぞると、慌てたように緩んだ。その隙間に舌を滑り込ませ、
まずは唇の内側を軽く舐め回す。
「……ん…」
 桜の喉から、驚いたような呻きが漏れる。
 今までの触れるだけのキスとは違う。今夜は最初から大人のキス。
 今夜は、大人の女として、桜に触れると決めている。
 舌を次第に深く潜り込ませる。さりげなく、躰に回した手を上下させながら。歯の裏や上あごの
敏感な箇所を探るたびに、細い肩はぴくんと震える。しかし、怯えたように縮こまっていた舌も、
次第に大胆に、俺の舌に絡むようになってくる。
 唾液が混じり、湿った音が響く。
「……くっ」
 苦しそうな呻きが漏れたので、唇を離すと、桜は、窓の手すりに倒れ込むように寄りかかった。
「苦しかったか?」
 呼吸が苦しかっただろうか。
「せ…んせっ……」
 喘ぎ混じりに、掠れた声で。
「あたし……駄目かも……」
 大人の女として触れると決めてきたものの、一方、無理はするまいと自分に言いきかせてもいる。
初めての夜というのは、女性にとってとても大切なものだと思うし、それとともに恐怖でもあろうし、
かなりの痛みも伴うわけで。
 桜を、傷つけることはしたくない。
 けれど……少し着崩れた浴衣の、抜いた襟元から紅潮した細い頸と背中が覗けていて……
「……怖いか?」
 その背中を見ないよう、そして堅くなりつつある股間のモノが桜に触れないように腰を引きつつ訊くと、
「……あたし、もう……壊れそうで……」
 泣きそうな声が返ってきた。
「それで、いいんだよ」
 真っ赤になった耳たぶに、そっと口づけながら。
「男って、好きな女が、自分の腕の中で壊れていくのが、嬉しいんだ」
「そう……なんですか? 先生もそう?」
 うるんだ目が俺を覗く。
 頷いてみせてから、耳元で囁く。
「もちろん。安心していくらでも壊れていい。俺に、任せてくれないか」
「……はい……」
 桜は小さくそう答え、くるりと振り向くと、俺の胸に顔を埋めた。
 浴衣の胸元にしがみついた小さな両手を引きはがし、俺の首に回させる。
その両手を首の後ろで組ませて。
「しっかり組んでろよ」
「はい?……うわっ」
 桜の背中と膝の裏に腕を入れて、一気に抱き上げた。いわゆるお姫様だっこというヤツだ。
「きゃーっ、先生っ、やめて、重いでしょっ。腰痛めますよっ」
 桜は俺の首にしがみつきながら、じたばた暴れた。
「年寄り扱いするな、お前の体重くらい軽いもんだ」
 有無を言わせず、布団の上に運ぶ。

 本当に軽かった。
 小さいんだ、本当に。

 唇を触れ合わせながら、そっと小さな躰を布団に下ろした。壊れ物のように。そのまま、
今夜二度目のキスに入る。さっきのよりも、もっと深く。
 キスをしながら、浴衣の上からふっくらと盛り上がる胸に触れると、桜の手が、俺の手をぎゅっと
握りしめて止め、
「灯り、消して下さい」
 震える声で、でも決然と言われてしまった。
「はいはい」
 ちっ、明るいままなだれ込んでしまおうと思っていたのに。
 桜の全身を隅々まで目に焼き付けておきたかったのに……次に会えるときまで、いつでも
思い出せるように。
 電灯の紐をひっぱって豆球だけにし、ついでに、開けっ放しだった窓も閉める。
 オレンジ色の薄灯りの下、半身を起こした桜は、少々はだけた襟元を押さえつつ、唇を尖らせ、
「真っ暗がいいなあ……」
「真っ暗だと危ないぞ。間違ってヘンなところに入れちまうかも」
「えっ」
 まさかそんなことはあり得ないが、桜は真に受けたらしく、それ以上文句は言わなかった。
「暗闇がいいなら、目を閉じてろ」
「やだ……全然先生が見えなくなったら、怖いです」
「俺だって、手探りは怖いんだけど」
「そっかぁ。でも恥ずかしいですよ、やっぱ……」
 身を起こしたままの桜の隣に座り、抱き寄せようとすると、
「だって、先生、初めてじゃないでしょ、当然」
「まあ……そりゃな」
 思わず怯むと、
「あ、それがイヤだとか言ってるんじゃないですよ、もちろん、先生のが10歳も年上なんだもん、
経験あるのは当然ですよ。むしろ無い方がこの場合怖いっつーか」
 そう言って、困ったように笑って。
「でも、あたし、チビで子どもっぽいし、色っぽくないから……他の女性と比べられると、
やっぱ恥ずかしいなって」
「そんなの」
 抱きしめたそのまま、布団に押し倒した。
「関係ねえよ。大体俺だって、前に彼女いたの4年も前だし、比べられるほど覚えちゃいないって」
 そういうと、桜は少し考え込むような顔をして。
「4年……ってことは、えっ」
 せっかく押し倒したのに、桜はまた、ぐいと起きあがってしまった。頭がぶつかりそうになって、
俺は慌てて横に転がって退いた。
「N高にきてからも、彼女いたんですか!?」
「ああ、まあな、すぐ別れたけど」
「うっそー、全然気がつかなかったぁ。ど、どど、どうゆう方とつきあってたんですか?」
 横になったままの俺の顔を覗き込みながら、桜は迫ってくる。
「あー……」
 この勢い、話さないと、勘弁してくれそうもないな。 いつか話さなきゃとは思っていたが、
このタイミングって。マジで今夜は最後までたどり着けないかもしれない。
「大学出てすぐ非常勤で赴任した中学校の同僚の先生だよ。N高に転勤してから、忙しくなって
会えなくなって、自然消滅」
「はー、そうだったんですかぁ……」
「N高に来て、吹奏楽部の顧問になっただろ。初めて、ちゃんとした吹奏楽部のある学校に赴任できて、
嬉しくて、土日も殆ど休みなしで部活に出てただろ、全然会えなくて。まあ、自然消滅ってか、
愛想尽かされたんだな」
 その元カノも小柄で可愛らしいタイプだったと、久しぶりに思い出す。俺って結局そういうタイプが
好きだということか……
「なるほどー」
 桜は納得したように、何度も頷いた。
「普通の人は、あの熱意は、理解できないでしょうねえ」
「桜は、理解してくれるのか?」
「あたしの場合は、こうしてあたしのそばにいてくれる先生も好きですけど」
 桜は、今度は自分から布団に横たわり、俺の腕の中に潜り込んできた。
「棒振ってる先生も好きですから。生徒と一緒に泣いたり笑ったり怒ったりしてる先生も、大好きだから」
 そう言って、うふふ、と笑い、俺の胸に顔を埋めた。
「……そう言ってくれるのは、桜だけだな」
「そうですよ。多分、あたしだけ」
 背中にきゃしゃな腕が回り、ぎゅっと抱きしめられた。
 子犬のように俺にじゃれつく桜を見ていると、やはり、今夜はこのまま他愛ない話をして過ごした方が
いいのかもしれない。その方が、桜にとっては楽しいのかもしれない、なんて思ってしまう。

 しかし。
 この、中途半端に勃ってしまったコレ……

「……あの、先生」
 逡巡していると、桜が意を決したように口を開いた。
「ん?」
 腕の中から、桜は真剣な眼差しで俺を見上げる。
「あたし、痛がるかもしれませんけど、でも、今夜は最後までやってください」
「え……」
 逡巡を見透かされたのかと、正直びびった。
 しかし、桜は続けて、
「相当痛いらしいですね、初めてって」
「あ……ああ、そうらしいな」
 だから無理しなくても……と言葉を続けようとすると、
「美誉に散々脅されました。マジで痛いよー、引き裂かれるみたいだよー、お腹に穴あくかと思うよー、
とかって」
 美誉……またあいつ、よけいなことを……
「でもね、こんなことも言ってました。本当に好きな人とだから、大丈夫だろうけどね。
先生、優しいしー、って」
 ほう。たまには気の利いたことも言うじゃねえか。
「それから、初体験を痛くなく済ませる一番の薬はたぶん、耳元で囁かれる甘い言葉だよ、
なんて言ってた」
 ふふ、と胸元で笑いが漏れる。

「げ……」

 思わず呻く。
 美誉め。甘い言葉なんて、全くもって俺のガラじゃないのに……
 密かに舌打ちしたが、ところが桜は、
「さっき、甘い言葉、囁いてもらったから、きっと大丈夫ですね」
「えっ、俺、何か言ったか?」
 黒目勝ちのどんぐりのような目が、いたずらっぽく細められた。
「言いましたよ。あたしにとっては、充分あっまぁ〜い言葉」
 何言ったっけ? わからん……
 桜は、浴衣がはだけた俺の胸に鼻を押し当てて、子犬のようにクンクンと匂いを嗅いだ。胸の肌に直に
触れている鼻先と、息が、甘くくすぐったい。
「温泉の匂いがする」
「2回も入ったからな」
「あたしも……温泉の匂い、しますか?」
「……どれ」
 両肩を抱きかかえるように布団に仰向けにし、露わになっている鎖骨のあたりに唇を触れる。
 それだけで、桜の全身が強張った。
「……うん、温泉の匂い、する」
「そ……ですか」
 微かに震える声。
「だけど、桜の匂いもする」
「え……あたし、なんか匂います?」

「甘い匂いがする……」

 その匂いは、多分俺の記憶の中の匂いだ。弁当に入っていたフルーツの、クリスマスに焼いてきてくれた
ケーキの、そして洗い髪から漂うシャンプーの。
 鎖骨から首筋をそっと舐め上げながら、前で結ばれていた帯を解く。
 3度目のキス。
 舌を絡めながら、ゆっくりと浴衣の前をはだけると、薄明かりの中でも目を射るように白い、
ブラジャーとショーツ。
 桜はぱっと腕で胸を覆い、ぎゅっと腿を閉じ合わせた。
「隠すな、こら」
「……ううん」
 細い両手首を左手でまとめて掴み、頭上に上げさせて押さえつけた。
「……恥ずかし……」
 桜はぎゅっと目を閉じて、顔を背けた。

 そうして露わになった桜の躰は……まだ下着は着けてるわけだけど……ちっとも子どもっぽくなど
なかった。下着の中ではちきれるそうに盛り上がる乳房は、意外と豊かで。なだらかな曲線を描く腰から
尻を通り腿に至るライン。しっとりときめ細やかな肌。
 この躰。
 ある種類の男にとっては、限りなく理想に近い躰かもしれない。
 子犬のように溌剌とした可愛らしいイメージの桜が、いざ脱がせてみれば、こんなに女っぽかったとは。
教師としてはアブナイ発言かもしれないが、俺も、こういうアンバランスさに惹かれてしまう男の
ひとりであって……

「先生っ、そんなにじっくり見ないでっ」
 薄明かりでも判るくらい赤く染まった頬。
「つい、見とれた」
「やだ、もぉ……」
 空いている右手を背中に滑り込ませながら囁く。
「桜、全然子どもっぽくなんかないじゃん」
「そ……うですか?」
 これも、処女喪失の痛みに効く、甘い薬になるだろうか、と思いながら、耳に吹き込むように。
「……すっげ、そそる」
 ブラジャーのホックは一発で外れてくれた。それこそ久しぶりだから、自信なかったんだけど。
「きゃ……」
 下着の呪縛から放たれた乳房は、待ちかねていたようにぷるんと震えた。。
 手は押さえつけたまま、右手で左の乳房を包み込むように触れる。指に力を込めると、めりこむほど
柔らかいのに、跳ね返す弾力を感じる。
 右の乳房に唇を当てると、桜が息を飲む気配がした。小さな……それこそ桜色の乳首を唇に含む。
「ひゃ……」
 舌先で転がすと、それはみるみる立ち上がった。
「あ……せんせ……」
 もう逆らわないだろうと、押さえつけていた両手を離すと、片手が俺の帯に伸び、しゅるりと解いた。
浴衣を脱ぎ捨て、覆い被さるように小さな躰を抱きしめる。
 耳元に聞こえる息づかいは、荒い。
 温泉でしっとりと潤った肌同士が吸い付き合い、気が遠くなりそうなほどに心地よい。
 やばい、俺、余裕なくなってきてるかも。
 俺の肩にしがみついていた桜の右手を取り、自分の股間に導く。トランクスの上から、すでにテントを
張っているペニスに触れさせた。
「うわ……」
 小さく驚きの声が漏れる。
「わかるか?」
 おずおずと小さな手がそれの形をなぞる。
「すご……こんなに大きくなるんですね」
 桜は3人兄弟の一番上で、しかも弟2人なので、ペニス自体は珍しくもないのだろうが。
「何もしなくても、こんなになっちゃうんですね?」
 きゅ、と握られて、思わず身震いしてしまった。
「桜の躰を見て、触れてるだけで……出ちまいそうだ」
 色っぽい言葉は、耳に吹き込む。
 マジでやばそうなので、桜の右手は肩に戻してから、次のステップに移る。
「ひゃ……あっ……」
 ショーツの上から、割れ目を撫で上げると、桜は悲鳴を上げ、ぴくんと躰を振るわせた。
どさくさ紛れに、桜の両脚の間にしっかり自分の躰を入れていたので、どんなにもがいても脚を
閉じることはできない。更に脚を開かせて、溝をなぞり続けていると、指先に湿った感触が伝わってきた。

「濡れてる」

「……やだ……」
 背けた顔が今にも泣き出しそうで……泣かせたくなったりする。
 脚の付け根からショーツに指を入れて、湿った割れ目に直接触れる。
「あんっ……」
 くちゅ、と期待していた音が響いた。
「ほら、こんなに」
「やだぁ……」
 ショーツを引きずり下ろすと、手が伸びてきて、そこを隠した。
「隠すなって」
「だって……」
 手をどかし、脚を広げると、
「いやだぁ……」
 桜は両手で顔を覆ってしまった。
 そこは、薄明かりにも光るほどに濡れていた。
 溝を浅く何度も往復し、ぬめりを充分まぶした指先で、敏感な突起に触れる。
「あっ」
 桜の腰が、びくんっと跳ねた。
 これでも強いか。
 なら……
「や……せんせっ、やめて、だめ、汚いよっ」
「桜の躰に、汚いところなんて、あり得ない」
 もがく桜に構わず、俺はそこに唇を触れた。
「あああん……」
 舌先で舐め回す。
「うぁ……」
 桜は怯えたような声を上げたが、抗うのをやめた。
 タッチはあくまで軽く、繊細に。
「せんせっ」
 桜が悲鳴のような声を上げた。

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