その気にさせてみな 最終回

 彼がクローゼットから取り出したのは手鏡。
 何をするつもりなんだろうと思わず身を起こすと、彼は私の背後に入り込んで腰を下ろした。私の背中が
彼の胸に密着するように、ぐいっと腰を引き寄せられたので、すっぽりと彼の脚の間に抱き込まれる形に
なる。彼の顔が私の肩の上に出て、
「はい、コレ持って」
手鏡を持たせられる。
「はい?」
……と。
「ちょ……晃っ」
 背後から素早く腕が伸び、再び脚がM字に広げられた。今度は彼の方が不利な体勢のはずだが、
驚いているうちに脚と手を使ってがっちり固められてしまった。
「鏡で見てみなよ。一度見て確かめたら、安心できるって」
「ええっ」
 見てみなって、軽く言うけど、出産前だって自分の局部を見るのってすっごい抵抗があったってのに!
「い、いいです」
 手鏡を傍らに置こうとすると、
「こら逃げるな」
 カリ、と肩先を噛まれた。痛い。
「確かめておきなよ。きっと気が楽になるよ」
「見たいようなモノじゃないよぅ」
「もー、美誉子って昔っからそう」
 焦れったさの表現なのか、髭が伸びた顎で今囓った肩の辺りをごしごし。痛いんだってば。
「どうしてそう自分を卑下するの? 俺が綺麗だって言ってるんだよ? この俺が」
……うっわあ、さすがにびっくりだ。良く言うよ。なんという自信過剰な言いぐさだろう!
 まあね、彼の場合説得力が無いこともないか。色んな意味で。
「自信持ちなよ。それでもっと自分の躰のこと好きになってよ。俺がこんなに好きなんだからさ。
そう卑下されるとさ、俺も悲しくなるじゃん」
「そういうもん?」
「そりゃそうだろ。俺がこんなに愛しちゃってるのに、美誉子本人が好きじゃないなんて、悲しい」
「そ……そう……」
 解るような解らないような……けれど、彼の理屈は正直言って、ちょっと痛い。確かに私は、
自分の躰を好きだったことは無い。16歳の時のあれ以来。
「わかったよう、見てみればいいんでしょう」
「うん、見てみなさい」
 おそるおそる脚の間に鏡を近づけていくと……黒い繁みの向こうに、ちらりと肉色の襞が見えて……
「み、見たっ」
 ダメだ、やっぱりちらっとだけでも恥ずかしいし怖い。
「こらっ、そんなの見たうちに入らないッ。ちゃんと観察するッ」
 更にぐっと脚が開かれた。
「あーん、勘弁してよう」
と訴えたところで、長い付き合い、勘弁してくれっこないことは分かってるので、仕方ない、
もう一度怖々と鏡を近づける。
 ふむ……
 出産前だって局部をそんなにじっくり観察したことはないのだが……それでも確かに彼の言う通り。
傷口は一直線に細く残っているだけだった。膣口も広がってしまっているようなことは無い……ように
見える。
 と。
 彼が私の持ち上げられた膝の下から右手を伸ばし、人差し指と中指でぐいと割れ目を開いた。
「やーん、何すんのっ」
「もっと良く見て」
「見たよっ」
「綺麗だろ? ピンク色で、つやつやで、全然出産のダメージなんて残ってない」
「わ、わかったから」
「ほら、これなんて本当に真珠みたい」
 くいっ、と指先で敏感な粒が露出された。
「あんっ」
 命令口調だった声は、次第に睦言めいて濡れて掠れる。
「どんどん溢れてくるし」
 確かに鏡にうつるソコは……鏡をどかせばいいとは思うのだが、彼の白い指が私のそこをまさぐる様子は
怖いモノ見たさのような強烈な刺激があり、つい見入ってしまって……みるみるうちに艶を増していく。
 そして背中に当たる、一時は半勃起状態だった彼も、再び硬度を増していくのを感じた。
 突然鏡が取り上げられた。彼は鏡を手の届く机の上にカシャンと放り投げるように置くと、私をソファの
上に俯せに押し倒した。両手を私の両手と重ね合わせ、甲の方からぎゅっと指を絡め合わせる。
「大丈夫だったろ?」
 背中をすっぽりと覆う温もり。お尻の割れ目にペニスがこすりつけられる。
「うん……みたいね」
「だからさ、安心して感じていいんだよ。これまで通り」
「うん……」
 ゆっくりと躰が返される。三たび脚が大きく開かれ、彼がそこにそっと口をつける。
「あ……」
 舌先が傷口をなぞる。ぞくぞくと熱い痺れが躰を駆け上る。
「美誉子のここ、愛したかったんだ。出産からずっと」
 ゆるゆるとした愛撫の合間の甘い囁きを、快楽に融けていく意識は子守歌のように聴く。
「大変だったよね……」
 そりゃもう大変だったよ、と語りたいことは山ほどあるが、彼の愛撫がとてつもなく優しかったので、
とりあえずゆったりとそれに躰も心もゆだねることにした。
 優しいゆっくりとした愛撫だったにもかかわらず、久しぶりだったせいか、登り詰めた場所は
突き抜けるように高く、その瞬間、我知らず大きな声を出してしまっていた。
「そんな声出したら、ヒミコがびっくりして飛び起きちゃうよ、おかーさん」
 ぐったりとソファに崩れ落ちた私に、彼は意地悪く囁いた。
「誰が言わせてるのよ……」
 とは言うものの、途中で起きちゃったらマジで困るから、気を付けなきゃ……
 コト、と背中の方で音がして振り向くと、また彼がクローゼットを開けていた。取り出したのは避妊具。
出産前は下の寝室のウォーク・イン・クローゼットに入れてたはずなのに、いつの間にか移動させてた
らしい。彼ってば、ホントにことコレに限っては、用意周到だよなあ。
「避妊した方がいいでしょ?」
 だるい躰で寝返りをうった私に訊いた。
「うん、そうだね。年子はさすがにつらいよね」
 まだ産後に生理が来ていないので、まさか大丈夫だろうが、念のため着けてもらうにこしたことは
無いだろう。
「てかさ……」
 彼はソファに腰掛け、真顔で私を見つめ。
「いいんだよ、無理に2人目作らなくても」
「え?」
 最低2人、できたら3人欲しいというのが、結婚前からの一致した意見だったはずだ。
「お産大変だったろ。切迫流産も怖かったし……だから、無理しなくていい。ヒミコだけでも充分だよ」
 一瞬、彼の目が泣きそうに歪んだ。
 思い出したのかもしれない。
 私はがばっと身を乗り出すと、ちゅ、と一瞬だけ彼の唇に自分の唇を触れさせて、手にしていた避妊具を
奪い取り、
「つけてあげる」
彼をソファに押し倒した。
「今度は私が晃を愛してあげる」
 半立ちのそれをぎゅっと握りしめる。
「ヒミコが1歳になったら、2人目頑張ろうね」
「え……だからさ、美誉子」
 身を起こそうとする彼をもう一度押し倒して。
「今回でどういう状況がヤバイかよーく分かったから、次は最初っから用心するよ。大丈夫」
「でも……」
「ヒミコに妹弟、作ってあげたいじゃない。兄弟ってやっぱりいいものだと思うしさ」
 生来一人っ子の彼は、とても兄弟への憧れが強い。今はたくさんの義兄弟がいるけれど、それでも
彼の中には血を分けた兄弟への渇望が今もあるはずで。
「それに私が産みたいんだもん。きっと楽しいよお、ヒミコがお姉ちゃんになって、弟か妹とケンカ
してるとこなんて、想像するだに可愛いじゃん?」
「そこでいきなりケンカを想像するわけ?」
 切なそうだった彼が、あはは、と笑ったのを確かめてから、私は彼のそれに唇をつけた。舌で舐め回し
まんべんなく濡らしてから、すっぽりとくわえ込む。手で根本をしごきながら、頭を舌で舐め回して
やると、それは私の手と口の中で、みるみる堅さと熱さを増していく。
「……もしもし、そろそろ入れさせてくれませんかね?」
 彼が微妙に苦しげに言った。
「もう?」
「もうじゃないだろ。俺は最初っからイケてたんだから」
 伸びてきた手に、彼の平らな腹に載せていた避妊具を奪われそうになったので、急いでパッケージを
破り、唇に挟む。手早く、且つ丁寧に装着すると、待ってましたとばかりに彼が私を自分の上に
引き寄せた。今夜何度目かわからないキスを交わす。腰を上下に動かし、濡れた溝を彼のそれに
すりつける。それだけで、一度達したはずの私のそこは、じわりと熱くなる。
「焦らすなよ」
 濡れて掠れる彼の囁きが、苦しくなるほど愛しくて。
「こらえ性の無いおとーさんだね」
 そう言い返す私の声も、うわずって濡れている。

―――忘れてた、この飢餓感。
 欲しい。
 彼が欲しい。
 私の中に。
 全部。
 飲み込んでしまいたい……

「ゆっくりでいいから」
 ぐ、と高々と立ち上がるそれの上に腰を下ろすと、彼が心配そうに私の腕を支えた。
「痛かったら止めてもいいんだからね」
「大丈夫だよ……」
 久しぶりだから痛みも無いことはないのだが、それを上回る充足感に泣いてしまいそうだ。
 分厚い肩に顔を押しつけ、この人に会えて良かったなあ、と、出会ってから何度思ったかしれない感慨に
浸ろうとして……思い出してしまった。
そうだ、そういえば、もうひとつ気になってることがあるんだよな……
「やっぱ、美誉子の中、気持ちいい」
 彼がぎゅっと私の中にそれを押しつけながら言った。
「……そお?」
「うん、気持ちいいよ」
「出産前と変わらず?」
「変わってないと思うけど……」
 と、彼が私の頭をがばっと掴んで、ぐいっと顔を起こした。
「ねえ、まだなんかクヨクヨ考えてる?」
 睨まれる。
「ん……まあね」
「何なんだよ、もお。さっき確かめて納得したろ?」
「うん、そうなんだけど」
「だけどって、今度は何?」
「んとね……ゆるくない?」
「は?」
「そこ、ゆるくなってませんか? 出産前より」
 だって、あんなでかいもんが出てきたのだ。握り拳よりまだでかいものが。引き延ばされていない
はずはない。
「ゆるくって……」
 彼はぽかんと口を開けてから、笑いだした。
 しかも涙が出るほどの大笑い。
「こら、ヒミコが起きちゃうでしょ。それに笑うとこか? 本人は真剣なのにい」
 紅潮したほっぺたを指でつまんでぐいっとひっぱる。
「ごめんごめん。でも、あーホント美誉子って面白い」
 げほ、と噎せながら彼は無理矢理笑いを治めたが、まだまだ口元と目元は今にも大爆笑しそうな気配で
ぴくぴくしている。
「大丈夫ですよ、ちゃんと出産前の締まりを取り戻してますよ……むしろ」
 彼は、いかにもって感じのわざとらしい真顔を作り、
「余分に縫ってもらったんじゃないの、って感じ?」
                                          FIN.


※スイマセン、50万hit感謝企画がこんなんで(^_^; 笑って頂けたならば幸いです。
 おそらく今一番需要が高いのが晃×美誉子のエロではないかと思って書いたんですが……
※いつもたくさんのご訪問、応援ありがとうございます。
 今後も細々と精進して参りますので、どうぞよろしくおつきあいのほどお願い申し上げますm(__)m

                                
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